農作物に対する遺伝子組換え(GM)技術の安全性をめぐっては、長年にわたって専門家や市民運動家の間で論争が続いていますが、多くの国では一般市民の間に根強い不安感があります。しかし、「シスジェニック/イントラジェニック」と呼ばれる新しいGM技術は、そのような状況を変えることになるかもしれません。EMBO(欧州分子生物学機構)のジャーナルEMBO Reportsが、この技術をめぐる最近の状況を伝えています。
- 記事 ⇒ Hunter, P. (2014), “Genetically Modified Lite” placates public but not activists. EMBO reports, 15: 138–141. doi: 10.1002/embr.201338365 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
植物の遺伝子に交雑不可能な異種の生物の遺伝子を組み込む「トランスジェニック(transgenic)」なGM技術に対して、交雑可能な同一種間の遺伝子組換えをシスジェニック(cisgenic)、また他の遺伝子を用いず、ターゲット植物の遺伝子発現を直接制御することをイントラジェニック(intragenic)と呼びます。後者の2つは、異なる生物種の遺伝子を持ち込まないため、より「自然に近い」GM技術として人々に安心感を与えるのに役立つとGM推進派は期待を寄せています。実際、2010年にEUで実施された世論調査では、トランスジェニック技術によるリンゴを肯定的に評価した回答者が33%に留まったのに対し、シスジェニックのリンゴでは肯定する人が55%と多くなり、一般市民がシスジェニックを従来のGMよりも受け入れやすいものと見ていることを示しました。
一方で、シスジェニックは伝統的な交配による品種改良と本質的に同じであるのに対し、イントラジェニックは交配では得られない新種の植物を生み出す可能性があるとして、両者を区別して後者をより厳しく規制すべきと考える専門家もいます。2012年、EUの専門機関European Food Safety Authority(EFSA, 欧州食品安全機関)はGM作物の安全性に関する報告書の中で、シスジェニックの危険性は伝統的な交配による品種改良と同等であるのに対し、イントラジェニックとトランスジェニックは従来にない新たな危険性を持つとの考えを示しました。そのようにシスジェニックを従来のGMより安全なものと評価する一方で、EFSAは、シスジェニックとイントラジェニック作物はともに「予期せぬ影響」を生む可能性があり、従来のGM作物に対してと同じ規制を課する必要があると提言しました。
今回の記事では、こういった動向とともに、立場の異なる専門家による賛否さまざまな意見をまとめています。記事は、これら新しいGM技術が市民に受け入れられやすいものとなるのであれば、環境への影響や生産性向上など、問題点と利点をしっかり議論すべきと結んでいます。