Wileyは3月12日、ジャーナルの編集者・論文の著者などさまざまな立場で学術出版に携わる人々が守るべき出版倫理上の行動規範を「ベストプラクティス・ガイドライン」としてまとめ、オンラインで無料公開しました。
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CONTENTS
- Introduction
- First: Speak with your publisher
- Research integrity
- Research ethics in journal articles
- Editorial standards and processes
- Copyright and intellectual property
- Resources for responsible publication policies and procedures
- Flowcharts
- Sample letters
- Contributors
研究不正(fraud)・剽窃(plagiarism)など、研究倫理・出版倫理への違反行為が後を絶たないことに対して、世界的に懸念の声が高まっています。そうした中で発表された今回の出版倫理ガイドラインは、2006年に発表された旧版を大幅に改訂したものです。研究分野を問わず、ジャーナル編集者・論文著者といった広範な学術出版の関係者を対象に、倫理違反となる行為を避けたり、また倫理上の問題に直面した時に正しく対処できるように行動の指針を示しています。
内容を細かく見ると、ジャーナルの編集者を対象にした項目が比較的多くなっていますが、論文著者にとっては特に画像の操作・加工や二重投稿といった項目が、問題のない行為と不正行為、あるいは中間のグレーゾーンといった判断基準を得るうえで参考になりそうです。
そのほか、ネット上の典拠文書やさらに詳しい情報源へのリンクも豊富に含まれ、出版倫理に関する「まとめページ」としても大いに役立ちます。
また、このガイドラインの発表に合わせてWileyのブログExchangesに掲載された記事では、Wileyのジャーナル BioethicsとDeveloping World Bioethicsのエディターを務めるカナダ・クイーンズ大学のUdo Schuklenk教授が、編集の過程で日々直面する出版倫理上の問題を、実例とともに語っています。
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同教授が手がけるジャーナルでは、生命「倫理」の専門誌でありながら、出版倫理に反する剽窃を含む投稿の事例が相次いでいるそうです。投稿論文はランダムに、また不審な点のある論文は狙い撃ちで剽窃チェッカーCrosscheckにかけて、過去の論文からの剽窃がないか確認しています。
同教授によると、編集者が疑いを持つケースのひとつに、非英語圏の著者による論文が、全体としては下手な英語で書かれているのに、特定の箇所だけ完璧な文章になっているというのがあります。誰かに表現を直してもらっただけという無実の場合もありますが、そこから剽窃の発覚につながることも珍しくないそうです。
また、その分野の文献を熟知している査読者から剽窃の疑いを指摘される場合もあります。同教授が初めて剽窃の実例に出会ったのがこのケースで、査読のために送られてきた論文が、タイトルを含めて自分が以前に書いた論文と全く同じだったそうです。
別の事例では、自分のジャーナルに載せた論文の大部分が別の医学誌の論文で剽窃に遭いましたが、その医学誌は、調査の結果エラータ(修正報告)を出しただけで終わりました。明らかな剽窃であるにも関わらず悪意のないミスと同じように扱われ、剽窃者は何の処分も受けませんでした。同教授は、剽窃チェッカーや検索エンジンの発達によって剽窃は発覚の確率が高くなっているが、発覚しても所属機関からの処分がなければ、ジャーナルの側にできることは投稿禁止くらいしかないと言います。そのため同教授は、出版社やCOPE (the Committee on Publication Ethics)などの関連団体が集まって、剽窃に対してより強力な罰則を与える方法を検討すべきと訴えています。