髪をとかすブラシに絡んだり、風呂場の排水口に溜まる抜け毛は、今のところ単なるゴミでしかありませんが、近いうちに貴重な資源として大切に扱われるようになるかもしれません。韓国・Korea UniversityのJong-Sung Yu教授らのグループは、ヒトの髪の毛を出発原料として、燃料電池などで反応の鍵となる酸素還元触媒を合成する方法を開発し、ナノ科学・ナノテクの専門誌Smallで報告しました。現在主流となっている白金触媒の代替として廃棄物を活用するユニークな試みとして注目されます。
- 論文 ⇒ Chaudhari, K. N., Song, M. Y. and Yu, J.-S. (2014), Transforming Hair into Heteroatom-Doped Carbon with High Surface Area. Small. doi: 10.1002/smll.201303831 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
白金触媒は、現在のところ最も高性能な酸素還元触媒とされていますが、白金は高価で希少な金属のため、その代替となる触媒材料の探索が進められています。中でも、グラフェンなどの炭素材料に窒素・硫黄などの原子を添加(ドープ)した「ヘテロ原子ドープ炭素材料」が有望視され、活発な研究の対象となっています。
一方、ヒトの髪の毛はケラチンと呼ばれるタンパク質を成分としており、15~16%の窒素と4.5~5.5%の硫黄を含んでいます。Yu教授らは、この髪の毛を唯一の出発物質として、熱処理などの3ステップで窒素・硫黄ドープ炭素材料を合成することに成功しました。この材料は、多孔性で反応に適した大きな表面積を持ち、導電性・安定性にもすぐれています。特に900℃で処理した試料(HC-900)は、市販の白金担持カーボン触媒に匹敵する性能を持つことが分かりました。同グループでは、この材料が酸素還元触媒のほか、蓄電や水質浄化・CO2吸収・水素貯蔵といった用途に応用されることを期待しています。
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