リチウムイオン電池を大幅に上回る大容量の充電池として注目されるリチウム硫黄電池ですが、充放電の繰り返しによる性能劣化・短寿命が実用上のネックとなっています。充放電時に硫黄系正極で生成する多硫化物イオン・ポリスルフィドが電解液中に流出してしまうことがその原因となっていますが、テキサス大学オースティン校のArumugam Manthiram教授らは、手近にある木の葉を熱して炭状にしたものを電池に組み込むことでポリスルフィドの流出を食い止め、電池の性能・寿命を維持できるようになることを発見し、ChemSusChem誌で報告しました。
- 論文 ⇒ Chung, S.-H. and Manthiram, A. (2014), A Natural Carbonized Leaf as Polysulfide Diffusion Inhibitor for High-Performance Lithium–Sulfur Battery Cells. ChemSusChem. doi: 10.1002/cssc.201301287 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
現在充電池の主流となっているリチウムイオン電池が正極材料としてコバルトなどを用いるのに対し、リチウム硫黄電池は正極に硫黄を用います。硫黄は安価で環境への負荷が小さいだけでなく、リチウムイオン電池の約十倍という大容量を実現可能なことから注目を集め、盛んに研究されています。
しかし、上記のポリスルフィドが電解液中に流出すると充放電効率と容量の低下が起こり、また負極のリチウムの劣化により電池寿命が縮まることが実用化の妨げになっています。これを防ぐために、正極材料として硫黄と炭素の複合材料を用いるなどの試みが行われていますが、Manthiram教授らは、純粋な硫黄の正極と電解液との間に炭化した木の葉を挿入するという手軽な方法が有効であることを実験で確かめました。
内部に水を蓄えられる植物の葉は天然の多孔質材料となっていて、炭化させることで硫黄と電解液の接触を妨げず、なおかつ生成したポリスルフィドの流出を防ぐ役割を果たせるようになります。それを使って同教授らが製作したリチウム硫黄電池は、1320 mAh/gという高い放電容量を達成するとともに、充放電効率は98%以上、充放電1サイクルあたりの容量低下は0.18%という高性能・長寿命を実現しました。身近な葉っぱを使うところがユニークですが、リチウム硫黄電池の実用化に向けての新しい有望なアプローチとして期待されます。
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