火山の噴火口近くや温泉地で鼻をつく「卵の腐ったような臭い」の原因である硫化水素(H2S)は、工場やごみ・下水処理場でも発生し、周辺環境に悪臭をもたらす厄介ものです。しかしこの硫化水素が、最近では硫黄と水素を回収するための資源として注目されるようになっています。
石油化学では、硫化水素から硫黄を回収する「クラウス法」が確立されていますが、クラウス法では水素が水に酸化されてしまい、燃料電池のエネルギー源となる水素を回収できないのが難点です。硫化水素を分解して硫黄と水素を同時に効率よく得る方法を求めて、熱化学分解などさまざまな試みがなされています。その中でも、太陽光を利用した光化学分解は特に環境面で好ましいと考えられますが、これまで有効な方法が見つかっていませんでした。
このほどオーストラリアと中国の共同研究グループは、太陽光の力だけで硫化水素を分解し、硫黄と水素を継続的に製造できる反応系の開発に初めて成功しました。この成果はAngewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告され、同誌の注目論文Hot Paperに選ばれました。
- 論文 ⇒ Zong, X., Han, J., Seger, B., Chen, H., Lu, G., Li, C. and Wang, L. (2014), An Integrated Photoelectrochemical–Chemical Loop for Solar-Driven Overall Splitting of Hydrogen Sulfide. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201400571 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- 化学ニュースサイトChemistry Viewsの解説記事 ⇒ From Stench to Resource (April 3, 2014, Chemistry Views)
この反応系は鉄イオンまたはヨウ化物イオンを酸化還元対として用いて、まず化学反応によって硫化水素から硫黄を得た後、太陽光をエネルギー源にした水素イオンの光電気化学的還元により水素を製造します。酸化還元対は一連の反応を通じて酸化・還元を繰り返すため、継続的に再利用できます。
実用化に向けては、生成した硫黄の効率的な分離・精製のような技術的課題が残されていますが、同グループでは、今回得られた知見が二酸化炭素の還元やメタンの活性化といった他の領域に応用されることも期待しています。
■ ACIEでは、急速な展開によって注目を集めている分野における研究で、編集委員が特に重要性を認めた論文をHot Paperとしています。
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