近年、論文出版に代表される学術コミュニケーションの分野には、オープンアクセス(OA)出版、新しい査読方式の試み、論文のネット上での反響を数値化するaltmetricsといった変化の波が次々と押し寄せています。
そのような変化の中で、現場の研究者が文献を読む・引用するといった行動をとる際に、さまざまな情報源に対してどのような信頼を置いて判断しているかを知るために、テネシー大学と調査会社CIBER Research Ltd.は共同で意識調査を行いました。このほど公開された調査結果の要旨を、Wileyの広報担当役員Alice Meadowsが学術出版の動向を論じるブログThe Scholarly Kitchenへの投稿で紹介しています。
- In (Digital) Scholarly Communications We Trust? (April 7, 2014, The Scholarly Kitchen)
- 調査結果報告書の原文(PDF)
査読誌に依然として高い信頼、OA誌に多い誤解
調査結果によると、研究者が最も高く信頼する情報源は査読付きジャーナル(査読誌)で、最近のさまざまな変化にも関わらずむしろ信頼度を高める傾向にあります。文献を読むかどうか判断する際に、ベテラン研究者は査読の有無を何より重視する一方、30歳以下の若手研究者ではソーシャルメディアのような新しいツールや、論文のダウンロード数・同僚による評価といった要因を信頼する傾向が高いことも分かりました。
またこの調査は、研究者の間で、「OA誌では査読が行われない」という誤解が根強いことを示しました。調査中のグループ対話によってこの誤解が正された研究者はOA誌への信頼を高めるようになり、また既に定評のある出版社が発行するOA誌も信頼されやすいことが分かりました。
OA誌へに対しては、信頼できない新興出版社が金めあてで発行するものという誤解も見られました。これは一部の悪徳出版社の存在が原因と考えられ、調査中のインタビューでは、投稿依頼や編集委員への勧誘メールの多さに辟易としている研究者から不満の声が上がりました。
人脈など個人的ネットワークが文献評価の重要ファクター
また調査結果は、文献を読んだり引用したりする際に、年代・研究分野を問わず個人的なネットワークが重視されることを明らかにしました。ある論文を引用するかどうかの判断基準とする要因についての質問では、トップ5のうち3つまでが「著者を知っている」「論文が載ったジャーナル・会議録を知っている」「研究グループを知っている」という個人的な人脈・知識に関わる項目でした。こういった人脈・知識はベテラン研究者のほうが豊富なのは当然ですが、一方で若手研究者は、それを補うためのツールとしてソーシャルメディアに期待しているようです。
altmetricsについては、単なる人気指標にすぎないという見方が強い一方で、若手研究者や開発途上国の研究者は信頼を置く傾向が比較的高いことが分かりました。
論文投稿先の決定に所属機関などの方針が影響、IFの過度の重視に懸念も
自分の研究成果をどのジャーナルに発表するかを決める際、判断基準として上位に挙がった項目は順に「妥当性」「査読の有無」「出版社の伝統」「雑誌の引用度」でした。また回答者の56%が、研究助成機関や所属機関の方針・義務付けによって影響を受けると答えました。そういった方針として代表的なのが、OAでの出版やインパクト・ファクター(IF)の高いジャーナルでの出版です。IF重視の傾向は年々高まっていて、特に若手研究者はその影響を強く受けるようです。ある回答者は「若手研究者が自分の目的に合ったジャーナルを選べず、IFの数字だけが基準になるのは残念」と懸念を表明しました。
今回の調査結果は、全体として査読誌に対する研究者の信頼が依然として高いことを裏付ける一方で、現在の若手研究者が将来学界の主流を占めるにつれて、ソーシャルメディアのような新しいツールが重要度を高めるようになる可能性を示唆したものと言えそうです。