3月に神奈川県三浦市沖で発生した貨物船衝突事故で重油が流出、周辺の水産業などに打撃を与えたとの報道は記憶に新しいところです。このような海難事故による重油・原油の流出は各地でしばしば起こっていますが、それに対して、流出した油を海から回収するのに適した性質をもつ材料の研究開発がさまざまな形で行われています。京都大学のグループが2013年に報告した「マシュマロゲル」もその一つで、これは水を寄せ付けない超撥水性と油を吸い込む親油性を兼ね備え、水と油との混合液から油だけをスポンジのように吸いこんで分離できるというものでした。
このほど中国科学院長春応用化学研究所の研究グループは、メラミン樹脂製のスポンジ(メラミンスポンジ)の表面にポリドーパミンなどの被膜を形成することで、本来は親水性のメラミンスポンジを超撥水性に変える方法を開発しました。流出原油の回収材としての利用が期待されるこの成果は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告されました。
- 論文 ⇒ Ruan, C., Ai, K., Li, X. and Lu, L. (2014), A Superhydrophobic Sponge with Excellent Absorbency and Flame Retardancy. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201400775 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
材料となるメラミンスポンジは、研磨・汚れ落とし効果のある掃除用品として100円ショップでも販売されているほど安価で入手が容易です。超撥水加工はわずか2工程で、特別な設備も必要とせず容易に行うことができます。
加工後のメラミンスポンジは有機溶媒の吸収性にすぐれ、吸収した溶媒を絞り出す工程を100回繰り返しても性質が劣化しないことが確認されました。また、このスポンジを原油を浮かべた水に投入する実験では、原油だけを数分内にほぼ完全に吸収することに成功しました。原油は粘着性が高いため、吸収後にスポンジを絞っても一部がスポンジ内に残りましたが、有機溶媒を使って容易に除去できることも確かめられました。
超撥水性メラミンスポンジのもう一つの特徴は難燃性です。メラミンは窒素を多く含むため、熱に接すると窒素を放出し、酸素を遮断することで燃焼を防ぐ性質を持ちます。この難燃性は、油を扱うため火災が心配な回収現場では利点となりそうです。