長年にわたる進化が生み出した生物からインスピレーションを得て材料開発に役立てるバイオミメティクス(生物模倣技術)がさまざまな分野で活用されています。このほどオーストラリアと中国の共同研究グループは、ハエの目のナノ構造にヒントを得て、水濡れや湿気による曇りを防ぐ酸化亜鉛(ZnO)コーティング技術を開発し、ナノ科学・ナノテクの専門誌Smallで報告しました。
- 論文 ⇒ Sun, Z., Liao, T., Liu, K., Jiang, L., Kim, J. H. and Dou, S. X. (2014), Fly-Eye Inspired Superhydrophobic Anti-Fogging Inorganic Nanostructures. Small. doi: 10.1002/smll.201400516 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
ハエは、湿気や汚れの多い環境でも視界を保てることが知られています。同グループがgreen bottle flyと呼ばれる種類のハエの目(複眼)を観察したところ、大きさ約5mmの複眼は直径20μmほどの小さな個眼が集まって作られ、さらにそれぞれの個眼が100nm以下の微細な突起で覆われていることが分かりました。同グループは、酸化亜鉛(ZnO)の微粒子(マイクロスフェア)を使って、このナノ構造をコーティングとして再現することに成功しました。
このコーティングは、水滴との接触角が162.2度となり、表面の水をはじいて濡れにくい超撥水性(接触角150度以上を指す)を示しました。その効果を確かめるため、このコーティングを施したガラス板と普通のガラス板を水平に置いて、人工的に作った微小な霧にさらしたところ、普通のガラス面では大きな水滴ができて横に広がったのに対し、コーティングした表面では体積4μL以下の非常に細かい水滴が形成されました。次にそれぞれのガラス板を斜めに10度傾けたところ、普通のガラス面には水滴が残ったままだったのに対し、コーティング面からは水滴がきれいに流れ落ち、コーティングによる濡れにくさ・曇りにくさ(防曇性)が実証されました。
低温下で霧のような細かい水滴が表面に付くと、次第に分厚い氷を作り、厳寒地での高圧電線の切断や飛行中の航空機の揚力低下といった深刻な問題につながる場合があります。撥水性・防曇性コーティングはそういった面からも重要で、今回報告された無機材料による撥水性・防曇性コーティング技術の実用化が期待されます。
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