<記事紹介> 質問しない若者たち - 学術講演後の質疑応答で、手を挙げられますか? (EMBO reports・Editorial)

raise hand著名な科学者を講師に招いての学術講演会やシンポジウムでは、講演後に質疑応答の時間が設けられているのが普通です。しかし、司会者が聴衆に質問を促しても一向に手が挙がらず、気まずい沈黙が続くという状況に覚えがある人は多いでしょう。そのような場合、参加していた偉い先生か司会者自身が二、三質問して口火を切ると、若手の研究者や院生がようやく後に続くことはあっても、若手が率先して質問するという光景は滅多に見られません。

このような現象は日本特有というわけではなく、他の国でも珍しくないようです。質問が出ないと、講師は「自分の講演が理解されなかったのか、期待外れだったのか」と不安になってしまいますし、一方で聴衆、特に若手研究者は、一流の講師と対話して理解を深める貴重な機会を逃してしまいます。この問題を、EMBO(欧州分子生物学機構)の速報誌 EMBO reports の Chief Editor を務める Howy Jacobs教授(フィンランド・テンペレ大学)が、同誌のEditorialで取り上げています。

EMBO reports

  •  記事を読む  Jacobs, H. (2014), Bored teenagers. EMBO reports, 15: 455. doi: 10.1002/embr.201438691 icon_free(無料公開中)

Jacobs教授は、若手が質疑への参加をためらう度合いは、各国の文化の違いによると見ています。偉い先生の言うことは常に正しいと考える文化は多くの国で根強く、かつてはそのような文化に縁遠かった米国でも、外国人留学生の増加とともに伝統が揺らいでいるそうです。

どうして質問しないのかと聞かれると、多くの人は自分の無知や理解不足をさらしたくない、特に同じ学科や研究室の先生の前ではなおさらだと答えます。それに対してJacobs教授は、講演で十分に理解できない点があれば、遠慮なく質問して説明を求めればいいと言います。聞き手が理解できないのは講師の側の説明不足が原因で、実は自分だけでなく他の聴衆も同じ点を理解できないでいるということは珍しくありません。質問を受けることによって、講師自身が説明不足に気づけば、背景を含めてより詳しく説明してくれるでしょう。

長期的な対策として、Jacobs教授は、高校や学部レベルで”critical thinking”(論理に基づく批判的・懐疑的思考)を磨くトレーニングが必要と考えます。そして、自分の考えを外に向けて表現できる若者を評価し、大学入試などの選抜に反映させるべきと訴えます。その一方で、大学側での即効性のある改善策として、講演に訪れた講師と院生が一対一で対話する機会を強制的に設ける、また講演直後に院生が少人数で集まって質問項目を話し合い、別途設けたセッションで講師に質問するといったことを挙げています。

Jacobs教授は、「科学者として成功するには、単に忠実な実験助手であるだけでなく、クリティカル(批判的・懐疑的)な対話ができるかどうかが重要」としてこの記事を結んでいます。

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