約3万1千人の会員を擁するドイツ化学会(GDCh)の新会長に2014年1月就任したメルク社のトーマス・ゲールハー(Thomas Geelhaar)氏は、2年間の任期中の最重点課題の一つとして、科学コミュニケーションを通じて社会に化学の普及を図り、一般の人々に化学の魅力を理解してもらうことを挙げています。そのためにゲールハー氏は、学会内に「化学と社会」に関するワーキンググループを新しく設け、取り組みの中心となる5つの目標を設定しました。化学ニュースサイトChemistry Viewsによるインタビューに答えて、その詳細を語っています。
- インタビューを読む Make Chemistry More Attractive (May 6, 2014, Chemistry Views)
ゲールハー氏はが挙げる5つの目標は、それぞれ以下のようにまとめられます。
- “Chemistry is…”: 化学的知識と化学の成果を、一般の人々に分かるような言葉で伝える
- “Fascination”(魅力): 物理学コミュニティがヒッグス粒子を「神の粒子」と呼んだように、化学的概念を伝える際に人々が魅力を感じ引き付けられるような表現を使う
- ナノテクのような新技術がもたらす機会とリスクを公平に伝える
- 資源問題・エネルギー問題・気候変動に代表される地球規模の課題に対して化学にどのような貢献ができるかを伝えるとともに、他分野との学際的な協力を進める
- 学校・大学での化学教育の改革
ゲールハー氏は、これらの目標の実現のために、ワーキンググループが中心となって活動を行うとともに、欧州レベルなど国際的な協力を図っていきたいと語っています。新会長の手腕が注目されます。
なおゲールハー氏はメルク社の液晶技術部門を長年にわたり率いた人物で、今回のインタビューでは、日本でマーケティング部門の長を務めたこともあると語っています。メルク社は19世紀末に液晶が初めて発見されたときから研究に関わった歴史を持ち、現在は液晶材料のNo.1サプライヤーとなっています。同社に残る貴重な文献・史料を活用し、ゲールハー氏は昨年、液晶研究の黎明期から125年間の歴史を辿るエッセイをAngewandte Chemieに寄稿しました。
- エッセイを読む Geelhaar, T., Griesar, K. and Reckmann, B. (2013), 125 Years of Liquid Crystals—A Scientific Revolution in the Home. Angew. Chem. Int. Ed., 52: 8798–8809. doi: 10.1002/anie.201301457 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- 当ブログの紹介記事 液晶の発見から125年|黎明期からの研究開発の歴史をたどるエッセイ (ACIE) (2013年6月6日)