犯行現場で鑑識官が指紋を採取する光景は、刑事ドラマを見る人ならおなじみですが、考えてみると、犯行の場所によっては古いものから新しいものまで多数の指紋が残されていることもあるはずです。事件と本当に関連のある指紋がどれか分からないと、捜査の効率が非常に悪くなってしまいます。
それぞれの指紋の古さを推定できれば、犯行日時の前後に付いた指紋だけを絞り込むことができますが、指紋の鮮明さのような見た目は他の条件に左右されるため、それだけで新旧を見分けることはできません。指紋が付いてからの経過日数を化学分析によって知る方法の開発が試みられてきましたが、これまで有効な方法は見い出されていませんでした。
一方、血痕については、血液中のヘモグロビンの酸化の度合いによって古さを推定する方法が開発済みです。それにヒントを得たアムステルダム大学の研究グループは、指紋に含まれるタンパク質と脂質の酸化状況を蛍光分光法で調べることによって、指紋の付着後の経過日数を推定する方法を開発しました。この成果はAngewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告されました。(右表紙)
- 論文 ⇒ van Dam, A., Schwarz, J. C. V., de Vos, J., Siebes, M., Sijen, T., van Leeuwen, T. G., Aalders, M. C. G. and Lambrechts, S. A. G. (2014), Oxidation Monitoring by Fluorescence Spectroscopy Reveals the Age of Fingermarks. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201402740 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
同グループが44人の被験者の指紋を使って行った実験によると、男性の指紋のうち55%に対してはこの分析法が有効で、付着してから3週間以内の指紋であれば、平均1.9日の誤差で経過日数を推定することができました。それに対して、女性の指紋からは十分な蛍光信号が得られず、推定を行うことができませんでした。同グループではその原因を、男女の皮膚成分の分泌量の違いによるものと考えています。