不特定多数の人々から主にインターネットを通じてプロジェクトへの出資を募るクラウドファンディングが、新しい資金調達法として注目されています。映画製作などクリエイティブの分野で特に活発なほか、山中伸弥教授がマラソンを通じてiPS細胞研究への募金を呼びかけたのも、クラウドファンディングのよく知られた成功例です。
山中教授のような個々の研究者による取り組みとは別に、さまざまな研究プロジェクトへの支援を目的としたクラウドファンディングサイトが立ち上げられていて、その中で特に成功しているもののひとつが、米国サンフランシスコに拠点を置く Experiment です。(Experimentの概要については、Technityさんの紹介記事が参考になります) その共同創設者のひとりDenny Luan氏が、Wileyのブログ Exchanges のインタビューに答えて、Experiment創設の動機や活動の意義を語っています。
- 記事を読む Is crowdfunding making science sexy? An interview with Experiment’s Denny Luan (May 23, 2014, Exchanges blog)
このインタビューによると、ワシントン大学の若手科学者だったLuan氏らは、革新的なアイディアを持つ科学者がそれを実現するための予算集めに四苦八苦していること、またその一方で一般市民が真の科学研究とつながりを持つための手段が絶たれていることに疑問を持つようになったのを契機に「科学のためのクラウドファンディング」という構想に至り、2012年3月にExperimentをスタートさせました。Experimentのビジネスモデルは、プロジェクトが目標とした額の資金を集められた場合にのみ5%の手数料を受け取るというもので、現在までの約2年間に140件以上のプロジェクトに対して資金調達を手がけてきたそうです。
Luan氏によると、Experimentの前にも科学研究に特化したファンディングサイトは存在しましたが、それらは出資者たちに「科学」をうまく提示することに成功していませんでした。一方、Luan氏をはじめ科学者としてのバックグラウンドを持つチームからなるExperimentは、ふだんは一般市民の目に届きにくい科学のストーリーや発見の瞬間の喜びを共有することに重点を置きました。
科学のためのクラウドファンディングに関心が高まっている背景としてLuan氏は、若手科学者が現在置かれている環境が”publish or perish”(研究成果を出版するか死か)のプレッシャーに支配され、優れた才能の持ち主が本来の研究活動に専念するのを妨げていることを挙げています。Luan氏は、クラウドファンディングはそのように制約的なシステムから科学者を解放するもので、研究資金調達だけでなく、究極的には科学研究のプロセス全体を市民と結びつける「民主化」をめざしていると語ります。
映画製作などを対象とするクラウドファンディングには、プロジェクトが成功した場合に出資者に金銭的などの見返りがあるものもありますが、Experimentでは有形的な見返りをあえて遠ざけ、科学的発見に参加する喜びそのものを出資の報酬と位置付けているそうです。また、立ち上げ当初はどういった研究分野が出資を集めやすいか予想していましたが、実際にはそのような予想は当たらず、むしろ個々の科学者がどれだけ熱心に研究プロセスを共有するかが資金集めに成功するための重要な要因だそうです。Luan氏は、どのような研究であっても、正しいストーリーと視点を提示できさえすれば、出資者に魅力を感じさせる「セクシー」なものになりうると言います。