<論文紹介> 「かぶと型」の新しいニッケル触媒によるケトンとフェノール誘導体のα−アリール化反応|名古屋大・伊丹教授、山口准教授らがACIEで報告

kabuto名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)拠点長の伊丹健一郎教授、山口潤一郎准教授らは、これまで実現困難とされてきたカルボニル化合物(ケトン類)とフェノール誘導体のカップリング反応を促進する「かぶと型」の新しいニッケル触媒(右図)の開発に成功しました。この新触媒は医薬品や有機材料の構成要素として有用性の高い芳香環カルボニル化合物を安価で入手が容易な原料から合成可能にするもので、パラジウム触媒を用いた従来のα−アリール化の課題を解決すると同時に安全性・安定性にもすぐれていることから、実用性の非常に高い合成ツールとして今後の広範な利用が期待されます。

伊丹教授らがこの成果を報告した論文はAngewandte Chemie International Edition (ACIE) に掲載されるとともに、化学ニュースサイトChemistry Viewsで注目論文として紹介されました。

カルボニル化合物に芳香環を導入するα−アリール化反応には、これまでパラジウム触媒とハロゲン化アリールが使われてきましたが、高価なパラジウム触媒の使用や環境に悪影響を与えるハロゲン化物の排出、促進剤として強い塩基の使用といった問題点がありました。伊丹教授らは、配位子のチューニングを徹底的に行うことでニッケルの反応性を大幅に高め、安価なニッケル触媒とフェノール誘導体によるα−アリール化に初めて成功しました。この反応に用いられるカルボニル化合物・フェノール誘導体とも安価で多くの種類が市販されているのに加えて、従来法と違ってハロゲン化物の排出や強い塩基の使用を伴わないのも大きな利点です。

カタロニア化学研究所(スペイン)のRubén Martín教授は、Chemistry Viewsの取材に答えて、伊丹教授らの今回の成果は間違いなく有機合成化学に新しい視点をもたらすもので、α−アリール化やその他のクロスカップリング反応の分野で、さらに新しいニッケル触媒反応の開発に向けて他の化学者たちを刺激するものだと語っています。

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