アウストラロピテクスなどの古人類は拳による殴り合いでお互いに争い、顔面へのパンチの衝撃に耐えられるよう顔骨格の形質を進化させたというユニークな説を、米ユタ大学の生物学者David R. Carrier教授らがBiological Reviews誌で報告しました。
- 論文 Carrier, D. R. and Morgan, M. H. (2014), Protective buttressing of the hominin face. Biological Reviews. doi: 10.1111/brv.12112 (無料公開)
初めて二足歩行を行うようになったアウストラロピテクス以降の古人類の顔は、ゴリラなどほかの類人猿と比べて、口・顎が前に突き出ず頭蓋骨のほぼ真下に位置する「正顎化」、臼歯の発達、頬骨・眼球孔など顔骨格の強化といった特徴を備えています。これらの特徴は、従来の学説では、木の実や草など堅い食物を主とする食生活に適応するためと説明されてきました。しかし最近の古人類学の研究では、古人類がそのような食生活を送っていたことを否定する証拠が複数見つかっています。また、こういった古人類の顔の特徴は男女差が大きく、男性の方でより目立ちますが、そのような男女差を食生活の面から説明するのは困難です。
Carrier教授らは、アウストラロピテクスの手が、それまでの類人猿と違ってしっかりと握り拳を作れるように進化したことと、それと同時期に顎や頬骨・眼球孔など殴り合いの喧嘩で骨折しやすい箇所が強化されたことに注目し、古人類は男同士で殴り合いを行っていたため、パンチを受けても耐えられるような顔骨格を持つ方向に進化圧が働いたと主張します。現代でも、しっかりした頬骨や顎は男らしい顔の特徴とされますが、殴られても簡単に骨折しない頑丈な顔の持ち主が女性から好まれる性選択に由来すると解釈可能です。
ユタ大学の発表資料の中でCarrier教授は、フランスの思想家ルソーの「原始状態の人類は平和だったが、文明化による腐敗が暴力をもたらした」という思想は今も根強く、一部の進化生物学者や人類学者から支持を受けているが、古人類学的証拠は、人類の祖先が決して平和的でなかったことを示していると語っています。