理研・小保方晴子ユニットリーダーらによるSTAP細胞論文への疑惑をめぐっては、論文に収載する画像の流用・加工といった不正操作の問題が大きくクローズアップされました。この問題について、EMBO(欧州分子生物学機構)の公式誌 The EMBO Journal のChief Editorを務めるBernd Pulverer氏が、同誌のEditorialで論じています。
- 記事を読む Pulverer, B. (2014), STAP dance. The EMBO Journal. doi: 10.15252/embj.201489076 (無料公開)
Pulverer氏によると、The EMBO Journalではデータアナリストを置いて、査読を通過した論文が出版される前に画像の精査を行っています。精査した論文の約1/5で、仮に出版後であれば少なくとも訂正を要するレベルの不適切な画像操作が見つかっています。問題が発覚した場合は、単なる不注意か、騙そうとする意図があったかなど悪質度を検討した上で対応しています。
STAP細胞論文への疑義が最初に騒がれたとき、同誌がアナリストに問題の論文を普段通りの方法でチェックさせてみたところ、直ちに画像の異常と流用を指摘したそうです。Pulverer氏は、研究機関やジャーナルが論文の出版前に再現性を独自に検証することまでは要求されないが、質の保証のために合理的な手段を採る義務はあり、特に発見内容が重要で驚くべきものであるほど出版前の精査が必要だとしています。
疑わしい発見を出版しないための精査の重要性を指摘する一方で、Pulverer氏は、論文に対する疑惑を告発する「自警団文化」の過度の高まりに対して憂慮を示しています。STAP細胞問題が大騒ぎとなった渦中で、京都大の山中伸弥教授が2000年に The EMBO Journal で発表した論文に対しても画像に疑義が指摘され(隣り合う2つのバンドが類似)、山中教授が否定のための会見を行う事態を招きました。Pulverer氏は、熟慮に基づく告発の意義に理解を示しつつ、研究者に対する過度のプレッシャーが科学の進歩を損ない、無実の研究者の前途を絶つことはあってはならないとして、自警団化の行き過ぎを戒めています。