ケモメトリックス(計量化学)の歴史を振り返る|手法の普及が進む一方、専門家集団としての地位低下の危機?

Journal of Chemometricsケモメトリックス(計量化学)は、化学実験によって得られたデータを統計学・計算機科学などの手法を用いて解析する分野です。現在、ケモメトリックス的な手法は化学の各分野で広く用いられるようになっていますが、その一方でケモメトリックスの専門家数は特にその伝統国で停滞しており、研究分野としての先行きが不透明な状況にあるようです。同分野に黎明期から携わってきた英ブリストル大学のRichard G. Brereton名誉教授が、ケモメトリックスの歴史を振り返る小論をJournal of Chemometrics誌に寄せています。

この論文によると、分析化学におけるケモメトリックス的な手法の利用は1960年代半ばに端を発しますが、chemometricsという用語が初めて登場したのはスウェーデンのWoldによる1972年の論文です。このWoldと米のKowalskiらを先駆者として、1970年代前半にケモメトリックスの発展が始まりました。1980年代にはChemometrics and Intelligent Laboratory SystemsとJournal of Chemometricsという二大専門誌が創刊されたほか、主要な専用ソフトウェアが開発され、また1983年には初めての国際会議が開かれるなど、ケモメトリックスは独立した専門分野としての確立が進みました。

ケモメトリックスの伝統国は北欧・米国・英国・ベネルクス3国などでしたが、専門誌での出版論文数の推移を見ると、これら伝統国からの論文出版の比重が下がる一方、中国・イラン・インドといった新興国からの論文が急速に増えています。Brereton教授は、欧米の伝統国の研究者によるケモメトリックスの論文は、分析化学全般を扱うジャーナルなどに分散して出版される傾向にあると見ています。

研究分野としてのケモメトリックスの拡散傾向は、同様に研究者数においても見られるようです。Brereton教授の試算では、ケモメトリックスの手法を何らかの形で用いる研究者が世界で12万人いるのに対し、ケモメトリックス自体の専門家は1~2千人しかいません。同教授は、他の研究の片手間に週のうち数時間だけをケモメトリックスに費やす人々を’Friday afternoon’ chemometricianと呼び、そういった人々の増加によってケモメトリックス的手法が興隆しているように見える状況の中で、逆に専門的知識・スキルの低下が進むことに懸念を示しています。

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