環境にやさしい溶媒などの用途に応用が期待されている「イオン液体」が、二種の蟻が戦闘時に発する毒液の混合物から生成することを、米サウス・アラバマ大学を中心とする研究グループがAngewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告しました。天然由来の成分からイオン液体を人工的に合成した例は過去に多く報告されていますが、純粋に天然に産生するイオン液体の報告例は今回が初めてです。
- 論文 ⇒ Chen, L., Mullen, G. E., Le Roch, M., Cassity, C. G., Gouault, N., Fadamiro, H. Y., Barletta, R. E., O’Brien, R. A., Sykora, R. E., Stenson, A. C., West, K. N., Horne, H. E., Hendrich, J. M., Xiang, K. R. and Davis, J. H. (2014), On the Formation of a Protic Ionic Liquid in Nature. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201404402 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
今回研究の対象になったのは、fire ant (S. invicta) と tawny crazy ant (N. fulva) と呼ばれる二種の蟻で、ともに南米産で近年になって外来種として北米に侵入したものです。これら二種は同じ地域で繁殖することがありますが、両者間で戦闘が起こると、ほぼ確実に N. fulva のほうが優勢になることが分かっています。S. invicta の武器はアルカロイドを含む強力な毒液ですが、N. fulva は自分の毒液(ギ酸)によってそれを中和・無毒化できるためです。
同グループが、S. invicta の毒液から抽出したアルカロイドをギ酸と混合したのち余分なギ酸を除去したところ、粘度の高い液体が得られました。この液体を分析した結果、「プロトン性イオン液体」としての性質を備えていることが確認されました。同グループでは、自然界では今回の実験になかったさまざまな要因が影響する可能性があると留保しながらも、頻繁に起こる二種の蟻の戦闘のうち少なくとも一定の割合で、イオン液体の生成が実際に起こっていると考えるのが合理的と結論づけています。