東工大 鈴木・大森研に1年間滞在したEva-Maria Tanzerさん、The Chemical Record誌に外国での研究生活についての体験記を寄稿

The Chemical Record昨日当ブログでお知らせしたThe Chemical Record誌の「全合成」特集号 から、もう一つの注目記事をご紹介します。

2013年4月から1年間、東京工業大学の鈴木・大森研究室にポスドクとして滞在したドイツ人女性Eva-Maria Tanzerさんが、日本を含む異文化の地での研究生活についての体験記を同号に寄稿しています。東工大のほか、日本化学会年会や向山門下生の会合といった場で、Tanzerさんと交流のあった方は少なくないと思います。そのようにしてTanzerさんを直接知る方に加えて、自ら海外留学を経験した方や、研究室で外国人留学生を迎えた経験のある方には、特に共感するところの多いエッセイではないかと思います。

 このエッセイを読む 

Tanzerさんは独ヴュルツブルク大学で学んだ後、MITへの短期留学、チューリッヒ工科大(ETH)での博士課程を経て若手有機化学者としてのキャリアを積みました。もともと慣れ親しんだ場所に長く留まるよりも、新しい研究環境や異文化の体験を積極的に求めるタイプの人だったようです。ETH滞在中に訪れた鈴木 啓介教授の講演に感銘を受けたTanzerさんは、PhD取得後の研究の場として鈴木・大森研を選びました。

日本語をほとんど知らなかったTanzerさんは、生活面での不便や文化的な戸惑いも体験しましたが、先生方や研究仲間の助けもあって充実した1年間を過ごしたようです。エッセイには研究室内外の人たちと撮った写真も多く収められていて、Tanzerさんを知る方なら懐かしい思いで見ることができると思います。

Tanzerさんは、鈴木・大森研を “incredibly hard working” と形容しています。これは同研や日本の研究室だけが特殊なのではなく、TanzerさんがMITで経験した米国の研究室も日本と近い状況にあるようです。Tanzerさんによると、ドイツやスイスの研究室では研究は1日に10時間・週5日が普通で、土曜日は出たり出なかったりという感じだそうです。一方、日米では最低でも1日12時間・週6日を研究に充てるのが当たり前になっていて、Tanzerさんはこれを、生活や人間関係の中心をプライベートに置くか職場に置くかという文化の違いととらえています。

日本の研究室では先生・先輩といった上下関係が明確なこと、各メンバーにゴミ出しなどの仕事が割り当てられていることなども、Tanzerさんには文化の違いと感じられたようです。また、鈴木・大森研は当時35人以上というTanzerさんにとって初めての大所帯で、もともとの研究室の狭さもあってスペース不足による苦労がありましたが、そのことは研究室の仲間が今何をしているかお互いに意識を高めることにつながったそうです。

このエッセイは、The Chemical Record誌が現在進めている故・野副鉄男博士(1902-1996年)のサイン帳オンライン復刻企画の一環として掲載されたものです。野副博士とTanzerさんとは、時代や出身国は違っても、国境を越えて多くの研究仲間と交流した有機化学者として重なるところがあるのではないでしょうか。

カテゴリー: ジャーナル, 一般 パーマリンク