R. Heck・根岸英一・鈴木章の3氏に2010年ノーベル化学賞をもたらした「クロスカップリング反応」では、マグネシウム・スズ・亜鉛・ホウ素・ケイ素などの有機金属化合物を用いるさまざまな反応が開発されてきています。それに対して、有機化学全般で広く利用される有機リチウム化合物を用いたクロスカップリング反応は、村橋俊一氏らによる1970年代の報告を例外に、最近まで目立った進展がありませんでした。
フローニンゲン大学(オランダ)のBen L. Feringa教授らのグループは2013年、有機リチウム化合物と臭化アリールおよび臭化アルケニルとの直接的クロスカップリングを報告し注目を集めました。(ChemASAPさんの解説記事) 同教授らはその成果をさらに発展させ、入手が容易な有機リチウム試薬と、フェノール類などから容易に誘導されるアリールトリフレートおよびビニルトリフレートを用いて、パラジウム触媒による直接的クロスカップリングに初めて成功しました。反応は50~70℃で短時間(1~1.5h)に進行し、医薬品や材料の重要な骨格となるビアニール化合物が中~高収率で得られました。有用性の高い目的化合物を入手容易な原料から効率よく合成できる今回の反応は、クロスカップリング反応の可能性を広げるものとして期待されます。
この成果はChemistry - A European Journal (Chem. Eur. J.) で報告され、同誌の注目論文VIP (Very Important Paper) に選ばれるとともに、化学ニュースサイト Chemistry Viewsで紹介されました。
- 論文 ⇒ Vila, C., Hornillos, V., Giannerini, M., Fañanás-Mastral, M. and Feringa, B. L. (2014), Palladium-Catalysed Direct Cross-Coupling of Organolithium Reagents with Aryl and Vinyl Triflates. Chem. Eur. J.. doi: 10.1002/chem.201404398 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- Chemistry Viewsの紹介記事 Direct Cross-Coupling of Organolithium Reagents (September 19, 2014, Chemistry Views)
■ Chem. Eur. J.では、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
⇒ 最近VIPに選ばれた論文
■ 関連書
Lithium Compounds in Organic Synthesis: From Fundamentals to Applications
Renzo Luisi (Editor), Vito Capriati (Editor)
ISBN: 978-3-527-33343-1
576 pages / April 2014