1950年代、映画館の観客に場面に合ったにおいを届ける「におい付き映画」技術の研究が盛んに行われ、Smell-O-Vision (スメロビジョン)やSmell-O-Ramaといったシステムが開発されました。この技術は広く普及することなく終わりましたが、最近ではデジタル技術の利用などによって、においの発生制御に向けての新しい試みが進められています。
これまでに開発されたにおい制御技術は、においの発生を熱でコントロールしようとするものがほとんどでした。しかしこの方法は、においの発生と中止に時間がかかりがちなのが難点で、映画の場面転換に合わせるなどのすばやいオン・オフ制御には適していませんでした。この課題をクリアするため、米フロリダ工科大のYi Liao准教授らのグループは、光照射によってにおい分子の放出を迅速にオン・オフできる化学反応系を開発し、Chemistry - A European Journal誌で報告しました。
同グループが開発した反応系は、高分子と結合させたにおい分子(実験ではアニスアルデヒドを使用)と、可視光を受けると酸を発生する光酸発生剤を組み合わせたものです。この反応系に可視光を照射すると、pH変化に伴う加水分解によって高分子との結合が切れ、におい分子が放出されます。においの発生と中止は、光照射のオン・オフに速やかに応答します。また光酸発生剤は暗がりに置くと可逆的に元の構造に戻り、反応後の高分子も加熱によってにおい分子と再結合させることができるので、ともにリサイクル可能で廃棄物が出ないのも利点です。
今回報告された反応系はアルデヒド類とケトン類にのみ適用可能なものですが、アルコール類など他の種類のにおい分子にも応用できるようにすることや、材料・反応装置の最適化が今後の研究課題となります。
- 論文 Wang, Z., Johns, V. K. and Liao, Y. (2014), Controlled Release of Fragrant Molecules with Visible Light. Chem. Eur. J.. doi: 10.1002/chem.201404203 (本文を読むにはアクセス権が必要です)