この論文についてツイートしているのはどんな読者? 知っておくと便利なAltmetricの”Demographics”機能

amscore7今年7月、Wileyの全てのジャーナルで、各論文がTwitterなどのソーシャルメディア上で示した影響度の数値指標「Altmetric(オルトメトリック)スコア」の提供が始まりました。Altmetricスコアは、論文がTwitterやFacebook、ブログ、ニュースサイトなどで言及された回数や、Mendeleyへの登録者数に基づいて算出されるもので、WileyのほかNature, Science, PNASなど多数のジャーナルで採用されています。

amscore6Wiley Online Libraryでは、各論文ページにAltmetricバッジと呼ばれるアイコンAm scoreと、その横に数字が表示され、その論文のAltmetricスコアを示します。そこにカーソルを当てるとスコアの内訳(ツイートが何回、など)がポップアップ表示され、その中の”See more details”かAltmetricバッジ自体をクリックすると、スコアの詳細画面を見ることができます。

Altmetricは論文がネット上でどのくらい話題になったかがほぼリアルタイムで分かり、またニュースサイトやブログでの引用を辿ることができるたいへん便利なものですが、単にスコアの数字を見るだけではスコアの「中身」までは分かりません。というのも、ある論文が多くの読者にツイートされるのは、必ずしもその論文の科学的なインパクトが大きいからとは限りません。論文のタイトルやグラフィカルアブストラクトが面白い、あるいはイグ・ノーベル賞に見られるように研究内容が面白いといったさまざまな理由で、その分野の研究者に留まらず興味本位の一般ネットユーザーも大いに盛り上がることがしばしばあります。そこまで行かなくても、論文がニュースとして世間の耳目を集めますが、科学的なインパクトは小さく引用回数が伸びないことは決して珍しくありません。場合によっては、同じ1ツイートであっても、専門家と一般人によるツイートを区別して扱った方がいいこともあるでしょう。

例えばある論文が1千回ツイートされたとして、その1千人はどういったユーザー層からなるのかが分かると、Altmetricスコアの中身を知る手助けになりますが、Altmetricにはそれを簡単に見ることができる“Demographics”という機能があります。それを以下でご紹介したいと思います。

下の論文は、Angewandte Chemie International Editionに掲載された、有機合成でいう「マイクロウェーブ反応の非熱的効果」は本当に存在するのかを論じたエッセイです。(当ブログの関連記事) 29回のツイートがカウントされています。(数字は2014年11月21日現在。以下同じ)

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上記の方法で詳細画面を開き、Twitterタブをクリックすると、各ツイートの内容を見ることができます。日本語のツイートが目につきますが、Chem-Stationさんがツイートした影響が大きいようです。

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今度はDemographicsタブをクリックすると、下の画面になります。まずGeographical breakdownとして、ツイートしたユーザーの国別内訳が表示されます。日本(JP)の比率が24%と高いですね。その下のTweeter demographicsがユーザーの種類による内訳です。一般ユーザー(Members of the public)が55%、科学者が41%、科学コミュニケーターが3%となっています。

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それぞれのユーザーをどうやって分類しているのかが気になりますが、Altmetricのヘルプによると、各ユーザーのプロフィールの記述、ツイートで引用しているジャーナル、フォロワーの内容から判断しているそうです。ですので100%正確とはいかないまでも、それなりの精度はあるものと思います。この例の場合、科学者が41%と意外に少ない印象を受けるかもしれませんが、ツイート回数の多い他の論文と比べると、これでも科学者の比率はかなり高い方といえます。

次の例 (Ernst, E. (2002), A systematic review of systematic reviews of homeopathy. British Journal of Clinical Pharmacology, 54: 577–582. doi: 10.1046/j.1365-2125.2002.01699.x) は、ホメオパシーの治療効果の有無を検証する臨床試験データをメタ分析した過去の論文(システマティック・レビュー)を集めてさらに再分析し、治療効果を支持するエビデンスは見つからないと結論した2002年の論文です。ホメオパシーとは、ある症状を引き起こす成分を極限まで水で薄めて摂取することで体の自然治癒力を引き出すとする療法で、現代医学から否定されているにも関わらず根強い支持者がいます。Altmetricがツイートのカウントを開始したのは2011年7月からなので、この2002年の論文についての全ツイートは捕捉できませんが、記録されているのは128ツイートです。Demographicsを見ると下のようになっていて、80%が一般ユーザーに分類されています。1つ目の論文以上に一般ユーザーの興味を引いたことは納得できそうです。

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3つ目の論文 (Jakubowicz, D., Barnea, M., Wainstein, J. and Froy, O. (2013), High Caloric intake at breakfast vs. dinner differentially influences weight loss of overweight and obese women. Obesity, 21: 2504–2512. doi: 10.1002/oby.20460) は肥満についての研究で、減量中は高カロリーの食事を夕食よりも朝食で摂るのが効果的であることを示したものです。このように身近な健康に関わる内容の論文はネット上での注目度が高く、この論文も288ツイートを集めています。下がそのDemographicsで、先の2つの論文と異なり、医師・医療従事者(Practitioners)の割合が28%と高くなっています。健康に関心のある一般人だけでなく、医療関係者も積極的にツイートしているということのようです。

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上にも書いたように、Altmetricによるユーザー分類をそのまま鵜呑みにはできませんが、ある程度のユーザー層の目安としては有効でしょう。興味のある論文や自分が書いた論文で、試してみてはいかがでしょうか。

(参考記事: Uncovering the mysteries behind the metrics. October 8, 2014. Wiley Exchanges

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