アセン類はベンゼン環が直線状につながった化合物で、2環からなる最も単純なナフタレンに始まり、3環のアントラセン、4環のテトラセンのようにそれぞれ命名されています。
アセン類は一般に環の数が増えるほど不安定となり、合成・単離の困難さが増します。7環からなるヘプタセンの合成は、1940年代に早くも着手されましたが、2006年のNeckersらの報告によってようやく成功が認められました。その報告も、高分子マトリックス中のヘプタセンの存在を分光法を用いて確認したもので、ヘプタセン自体の単離に成功した例は現在まで報告されていません、一方、置換基の導入によってヘプタセンを安定化させた誘導体の合成は、これまでに複数の報告例があります。
Neckersらの報告後、ヘプタセン合成で得られた知識を基に、さらに長いアセン類の合成へのチャレンジが急速に進んでいます。これまでに8環のオクタセンおよび9環の無置換ノナセンの合成(未単離)と、安定的なノナセン誘導体の合成が報告され、光学的性質などの解明につながっています。この分野の主導的な化学者のひとりである独チュービンゲン大学のHolger F. Bettinger教授らは、そういった長いアセン類の合成をめざした研究の展開を総説にまとめ、The Chemical Record誌で「Record Review」として発表しました。(Record Reviewは、化学における「最高」「最長」などの記録に焦点を当てた総説です。)
- 論文 Bettinger, H. F. and Tönshoff, C. (2014), The Longest Acenes. Chem. Rec.. doi: 10.1002/tcr.201402068 (本文を読むにはアクセス権が必要です)