化学分野の読者の方は、今年7月に2013年インパクトファクター(IF)が発表されたとき、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) のIFが前年より2ポイント以上低下したことに気が付いたでしょうか。(2012年 13.734 → 2013年 11.336) これは、ACIEの掲載論文の質が1年で大きく下がったことを意味するのでしょうか? 同誌の編集長Peter Gölitzによると、実はそうではなく、トムソン・ロイターがIFの計算方法を変更したことが原因のようです。昨日公開された同誌のEditorialでその事情が説明されています。
- 記事を読む Gölitz, P. (2014), The Impact Factor of Angewandte Chemie …. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201411579 (無料公開)
ドイツ化学会の公式誌であるAngewandte Chemieには、おなじみの英語版であるACIEとは別に、ドイツ語版のAngewandte Chemieが存在し、2つのバージョンが並行して発行されています。1888年に創刊されたドイツ語版がオリジナルですが、1962年に英語版Angewandte Chemie International Edition in English(のちにAngewandte Chemie International Editionと改称)が創刊され、その後の同誌の飛躍的な国際化につながりました。(Angewandte Chemieの歴史はこちらの記事をご覧下さい) ドイツ語版を目にしたことのない人が多いと思いますが、英語版ACIEと全く同じ論文・記事が載っています。総説・ニュース記事・書評などはドイツ語で掲載されるのが違いで、原著論文(Communication)は英語のまま掲載されます。
2012年のIFまでは、Angewandte Chemieの論文を他の論文が引用する際に、ACIEではなくドイツ語版だけの引用情報をreferenceに載せた場合も、ACIEの被引用回数に加えられていました。どちらのバージョンに載っても実際には同一の論文で、特に掲載論文の大半を占めるCommunicationの場合は言語まで同じなので、このやり方に問題があるわけではありません。しかし2013年IFからは、トムソン・ロイターの方針変更により、ドイツ語版だけの引用はACIEの被引用としてカウントされなくなりました。ドイツ語で出版される雑誌はACIEではなくドイツ語版の方を引用する傾向が強く、それらが計算から除かれたためIF低下につながったというわけです。Gölitz編集長は、今後Angewandte Chemieの論文を引用する著者はなるべくACIEとドイツ語版の両方を、もしどちらか一方だけの場合はACIEを引用してほしいと訴えています。
このEditorialでは、ACIEの投稿・掲載論文数などの統計も示されています。2014年にACIEに掲載されたCommunicationの数は2,257報、前年の2,150報から増加しました。Communicationの投稿数は約10,700報で、2013年の約10,200報から同様に増加しています。またこちらは2013年のデータですが、Communicationのリジェクト率は79%、査読に回らないエディターリジェクトは約30%でした。ほかにChem. Commun.やJACSの掲載論文数の推移との比較、地域別の投稿数の推移などのグラフを見ることができます。
この記事は、ACIEで今年7月に導入されたAltmetric score (論文に対するTwitterなどネット上での反響を示す数値指標) の上位10報も紹介しています。Altmetric scoreはプレスリリースの有無などさまざまな要因に影響されるため、スコアの高低が論文の価値をそのまま反映しているわけではありませんが、どういった主題にニュースバリューがあるかを知る参考になりそうです。