日本では原発再稼働をめぐって国民の賛否が依然分かれていますが、原子力発電を法律で禁止しているオーストラリアでは、ともに有力な環境科学者であるアデレード大学のBarry W. Brook, Corey J. A. Bradshaw両教授が、生物多様性の保全のために原子力利用を認めるべきとする論文を発表し、ネット上などで論議を呼んでいます。この論文は、The Society for Conservation Biology(国際保全生物学会)の公式誌 Conservation Biology に12月9日掲載されました。
- 論文 Brook, B. W. and Bradshaw, C. J. A. (2014), Key role for nuclear energy in global biodiversity conservation. Conservation Biology. doi: 10.1111/cobi.12433 (オープンアクセス)
- アデレード大学の発表資料 Nuclear should be in the energy mix for biodiversity (2014年12月15日)
新興国の経済発展などにより世界的なエネルギー消費の増加が予想されるため、温室効果ガスの排出による地球温暖化・気候変動のリスクと、それに伴う生物多様性の減少が懸念されています。それに対して、風力や太陽光などいわゆる再生可能エネルギーの活用をめざす研究開発が盛んに行われていますが、土地利用の制約や高コストといった課題が依然として残り、化石燃料の速やかな代替は容易ではありません。
今回の論文で両教授は、石油に代わるエネルギー源として石炭・天然ガス・原子力・バイオマス・水力・風力・太陽光の7つを取り上げ、それぞれを温室効果ガス排出量・コスト・需要呼応性・土地利用といった尺度で評価しました。そして、費用対効果を総合的に見ると、代替エネルギーの中で原子力が最も優位にあると結論づけました。その上で両教授は、最適なエネルギーミックス(エネルギー源の構成)は土地利用の状況などの要因によって地域ごとに異なるが、原子力を選択肢から排除せず、他のエネルギー源とともに先入観なしに客観的に評価すべきと主張しました。
原子力発電には事故のリスクや放射性廃棄物の発生への懸念が伴いますが、両教授は、リスクゼロ・廃棄物ゼロを求めるのはどんなエネルギー技術にも不可能だとした上で、原子力技術の進歩によって事故リスクの低下や廃棄物のリサイクル率の向上が期待できると反論しました。また両教授は、さまざまなリスクはトレードオフの関係にあり、原子力利用を排除すれば高い確率で生じる気候変動のリスクを無視してはならないと指摘しています。
論文の発表に合わせ、Bradshaw教授は15日に自分のブログConservationBytes.comで、両教授の主張を支持する各国の環境科学者・生態学者らから賛同の署名を得た公開書簡 An Open Letter to Environmentalists on Nuclear Energy を発表し、環境運動家に向けて自身の主張の理解を求めました。
さらに両教授は16日、環境保全を専門とするニュースサイト The Conversation への寄稿で、論文の趣旨を自ら解説するとともに、オーストラリアが採る原発ゼロ政策の変更を訴えました。この記事には、掲載から2日間で読者から260件以上の賛否コメントが寄せられるなど、今回の論文をめぐる論議が高まっています。