多くのジャーナル・研究機関で起こる論文撤回を常に監視し、しばしば論文不正問題の発信源となる有名ブログRetraction Watchを日頃からチェックしている人は多いでしょう。その共同創設者のひとりIvan Oransky氏が、WileyのブログExchangesのインタビューに応じ、Retraction Watchの活動と論文撤回・科学出版倫理の現状についての見解を語っています。
- インタビュー記事を読む Telling the story behind the retraction: a Q&A with Ivan Oransky (January 9, 2015, Wiley Exchanges)
Oransky氏は当初医学の道に進みましたが、15年前の研修医時代に医学ジャーナリストに転身し、The Scientist, Scientific American, Reutersなどに勤務しました。現在は2010年に創設したRetraction Watchの仕事のかたわら、医学情報ポータルサイトMedPage Todayの副会長兼執行役員を務めています。それと並行して、ニューヨーク大学で医学ジャーナリズムを教えたり、ヘルスケアジャーナリスト協会の副会長としての活動も行っているそうです。
Retraction Watchの創設に先立ち、Oransky氏ともう一人の共同創設者Adam Marcus氏は、ともに何年にもわたって多くの論文撤回の事例を報道してきました。その経験から二人が知ったのは、論文撤回にはしばしば大きな不正問題が関わる一方、それを通じて科学が自己修正に長けていることを教えてくれるということでした。そこで二人は、ブログRetraction Watchを立ち上げて、論文撤回の背後にあるストーリーを伝えようと決意しました。
Retraction Watchは現在、訪問ユーザーが月間10万人以上、60万ページビュー/月という人気サイトに成長し、毎週のように大手メディアで伝えられるニュースの発信源となっています。また慈善基金団体マッカーサー基金が40万ドルの助成を行うなど同ブログの活動への支持の動きが広がっています。
近年論文撤回が増えている理由としてOransky氏は、論文出版のオンライン化により論文が多くの読者の目に晒されるとともに剽窃検知ソフトによるチェックが可能になり、昔なら見過ごされていたような不正が発見されやすくなったこと、またその一方で研究者へのプレッシャーの増加により不正行為自体が増えていることを挙げています。
またOransky氏は、インターネットは論文の不正を発見しやすくしただけでなく、発見した問題点を読者が広く発信することを可能にしたと指摘しています。読者が出版後の論文について議論するサイトPubPeerやTwitter, Facebookなどが、そういった手段として役立っています。
科学出版倫理の将来についてOransky氏は、retraction notice(撤回公告)に書かれる撤回理由が弁護士の介在によって不透明にされがちな点が、今後改善されることを期待すると語っています。撤回理由を明確にした方が、悪意のない誤りが原因で論文を撤回する研究者にとって利益になるというのが同氏の考えです。