<記事紹介> 平等と競争、どちらを重視? ドイツが進める2つの対照的な研究機関助成イニシアチブ (EMBO reports)

germany2000年前後、ドイツの大学は慢性的な予算不足に苦しみ、若い才能の国外流出が問題視されていました。その後の約十年間にわたるシュレーダー前首相と現在のメルケル首相の政権下では、知識とイノベーションが経済成長と国際競争力の向上に不可欠という考えから、科学研究への大胆な投資拡大が行われてきました。ドイツのGDPに占める研究投資額の割合は、2000~2005年の2.5%前後から2012年には2.98%に上昇し、EU加盟国の中で最高水準にあります。

そのドイツでは、研究機関の間の「平等」と「競争」のどちらを重視するかという点で違いが顕著な、2つの研究助成イニシアチブが並行して進められてきました。その経緯を、EMBO(欧州分子生物学機構)の EMBO reports誌がニュース記事で伝えています。

EMBO reports

  •  記事を読む  Weigmann, K. (2015), Lessons learned in Germany. EMBO reports. doi: 10.15252/embr.201440011 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

ドイツの科学研究では伝統的に、マックスプランクやフラウンホーファーなどの研究機関が、大学と並んで重要な役割を担ってきました。これら大学以外の研究機関を対象にしたイニシアチブ Pact for Research and Innovation は、連邦および州政府による各機関への補助金を毎年一律に増額することを保証しています(2006-2010年は年率3%、2011-2015年は年率5%)。これによって各機関は研究資金の安定的な確保が保証され、研究所の新設や既存研究所の重点領域の変更、海外研究者の招へいなどが可能になりました。

それに対し、大学を対象にした研究助成事業がExcellence Initiativeです。2003年に上海交通大学が初めて発表した世界大学ランキングで、ドイツの大学は1校もトップ40入りを果たせず、関係者は危機感を強めました。2005年に始められたこのイニシアチブは、競争によって選んだトップ大学を重点的に支援するもので、それまで平等志向の強かったドイツの大学政策を大きく変えることになりました。現在、11大学が「Excellent」と認定され、重点支援を受けています。

Excellence Initiativeは概ね成功例と見られており、特に各大学がそれぞれの個性に応じて教育・研究上の重点項目を選ぶよう促した点が評価されています。その一方で、過度の競争と研究助成の短期性を懸念する声もあります。例えば、カールスルーエなど3大学は2006~07年にExcellentと認定されましたが、2012年には早くもその地位を失い、世間からの評価の面で大きなダメージを受けたことから、大学に対して短期間で成果を求めすぎではないかという批判を招いています。

このように、ドイツでは大学とそれ以外の研究機関とで対照的な研究助成政策が採用され、一種の社会実験の様相を呈しています。興味深いことに、両者の生産する論文数の伸び率は拮抗しているそうです。

Pact for Research and Innovationは2015年、Excellence Initiativeは2017年に終了予定で、ドイツ研究振興協会(DFG)などの研究助成団体は、その後の方針をめぐって政治家への働きかけを行ってきました。特に大学については、個別の研究プロジェクトとは別に全体的な人件費や研究費用・インフラを賄うための「基礎的助成」の増額を求めています。記事の中でフンボルト大学ベルリンのStefan Hornbostel教授は、「国際的競争力のあるトップ大学は支援を受けるべきだが、トップ大学とそれに続く大学との格差を人為的に拡大する必要はない。小規模だが特定の分野で強さを発揮する大学も評価・支援すべき」と語っています。

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