Wileyから本を出版した著者に自著を解説いただく「著者が語るWiley新刊」シリーズの久々の更新となる今回は、昨年11月に“Ligand Platforms in Homogenous Catalytic Reactions with Metals”を共著で出版された京都大学大学院人間・環境学研究科 山口 良平名誉教授と同 藤田 健一准教授に、同書の内容をご紹介いただきます。
Ligand Platforms in Homogenous Catalytic Reactions with Metals: Practice and Applications for Green Organic Transformations
by Ryohei Yamaguchi, Ken-ichi Fujita
ISBN: 978-1-118-20351-4
Hardcover / 361 pages / November 2014
US $150.00
(Chapter 01を試読用に無料公開中。また上のタイトルまたは表紙画像をクリックすると、リンク先で目次など詳しい情報をご覧いただけます)
環境と調和する持続可能な発展のために、現代有機合成化学においては、環境負荷のより低い原料や試薬を用いて、より高原子効率的に分子変換を行う手法の開発がますます重要になっています。この観点から、有機金属錯体触媒を用いた水素移動を基軸とする様々な触媒反応[水素化(還元)、脱水素化(酸化)を含む]が多大な注目を集め、広範囲に渡って研究されています。中でも、有機分子間の水素移動反応および脱水素化反応に対して、高い触媒機能を示す金属錯体を設計し、創製することが求められています。錯体の触媒性能については、金属自身の性質に加えて、金属中心を取り囲む配位子が大変重要な役割を果たしていますが、水素移動を基軸とする触媒反応において、金属—配位子の協働触媒作用や機能性配位子の重要性が広く認められるようになってきました。このように、高い触媒活性、選択性、等を有する遷移金属錯体触媒を開発するためには、配位子の選択が決定的に重要です。
本書は配位子基盤の重要性に注目し、水素化、脱水素化、ならびに水素移動を基軸とする環境負荷のより低い有機合成・触媒反応を達成するために、配位子の設計と選択について、有益で実践的な指針を提供しています。具体的には次の4部から構成されています。
第1部(1,2章):含窒素複素環カルベン(NHC)配位子
第2部(3,4章):シクロペンタジエンノンと関連配位子
第3部(5,6,7章):ピンサー配位子
第4部(8,9,10章):注目すべき二座およびその他の配位子
本書は、今までに別々に論じられてきた均一系遷移金属錯体触媒と水素化反応・脱水素化反応・水素移動反応について、配位子を縦軸に、反応を横軸にして、最近の成果を1冊にまとめて議論しています。本書が、高活性な遷移金属錯体触媒を設計・開発するための有益な指針となり、基礎研究ばかりでなく、工業的応用においても、グリーン有機合成・分子変換がさらに発展することを願っています。
最後に本書をご一読頂きました、遷移金属錯体と触媒反応の研究でご高名な京都大学名誉教授・光藤武明先生のコメントを載せておきます。
「均一系触媒の本はいろいろと出ておりますが、このような切り口の本はあまりなく、とても興味深いもので、内容も他の研究者たちの研究の発展への寄与は無論のこと、また著書のまとめ方としても大いに参考になります。」