研究に携わったメンバーのうち、誰を論文の共著者に加えて誰を加えないかという判断は、時として出版倫理に関わるデリケートな問題を引き起こします。この主題については別の機会に過去記事「Authorshipの問題」でも取り上げましたが、Software Testing, Verification and Reliability (STVR) 誌の共同編集長Jeff Offutt教授(米ジョージ・メイソン大学)は、同誌最新号(2015年3月号)のEditorialでこの問題を論じています。
- 記事を読む Offutt J. (2015), Editorial: Who Is An Author?, Softw. Test. Verif. Reliab., 25, 73–76, doi: 10.1002/stvr.1571 (無料公開)
共著者に入れるべきかどうかの判断基準としてOffutt教授は、次の原則を科学者のコンセンサスとして挙げています。
Everyone who makes substantial contributions to the results is a co-author on papers that present those results. (研究に重要な貢献を果たした人は誰もが、その研究に基づく論文の共著者になる)
Offutt教授はこの原則に加えて、すべての共著者は投稿前に論文に目を通し、執筆に参加する機会を持つべきだと言います。こういった原則に反する典型例が、十分な貢献をしていない人物の名前が共著者として載る“guest author”です。同教授はguest authorを、「他者の著作やアイディアを横取りして自分のものにする」という意味でplagiarism(剽窃)の一形態だと指摘します。その反対に、十分に貢献した研究者を共著者から外すのが“ghost author”で、同教授は共同研究者間で対立が起こった場合などに発生するとしています。当然ながらghost authorも出版倫理に抵触し、他の著者は結果的にその人物からアイディアを奪ったことになるので剽窃にあたります。
この原則には多くの人が賛同できるでしょうが、現実の場面で共著者に入れる・入れないの判断を下すのは必ずしも容易ではありません。その大きな理由は、「重要な貢献」に当てはまるかどうかの客観的な線引きが存在しないことにあります。Offutt教授は、論文の執筆前に、研究に携わった関係者全員で誰が共著者になるかをオープンに話し合っておくことが重要だとしたうえで、重要な貢献と判断するための次のような目安を挙げています。
- Was the person “in the room?”(研究の現場にいたか)・・・ 現場にいれば「重要な貢献」を果たした可能性が高いですが、いるだけで全く発言しなければその限りではありません。
- Did the person run the experiment?(実際に実験を行ったか)・・・ この点では分野による違いがあり、実験者が確実に共著者になる分野と、テクニシャンの仕事を研究への重要な貢献とみなさない分野とがあります。
- Would the results have been different without this person?(その人がいなければ結果が変わっていたか)
- Did the person build the experimental infrastructure (the software, lab, etc.)?(実験のインフラを作ったか)・・・ 汎用的なソフトウェアのプログラマを共著者に入れることは考えにくいですが、特定のプロジェクトのために専用で開発されたソフトウェアなら十分にありえます。
- Did the person provide editorial services?(文章の校閲を行ったか)・・・ グレー領域にあたり、校閲の結果生じた改訂の程度によって判断が分かれます。
一方、Offutt教授が一般に「重要な貢献」とみなさないのは次のような場合です。
- Experimental subjects(実験の被験者)
- Relatively light grammar editing(軽微な校閲)
- Provided funding(研究費の獲得)・・・ Offutt教授は、単に予算を獲得しただけなら共著者に値しないが、予算申請書と論文の内容がかなりの部分一致するなら共著者になりえるという考えです。しかしこの点については研究者間で意見が分かれ、研究室の代表者は常に共著者として載るのが当然と考える人もいます。
- Did work that was cut during revision(リビジョンの過程で担当部分がカットされた)
- Taught the class(授業を担当した)・・・ 授業の一環で行われた研究プロジェクトから論文が生まれた場合、授業を担当した教員が共著者になるかどうかはその貢献度次第です。教員が執筆者の学生に対して十分に有益な指導を行ったのであれば重要な貢献とみなせますが、単に授業を担当しただけでは要件を満たすといえません。
これらの項目を見ても、重要な貢献にあたるかどうかを機械的に区別するのは難しく、ある程度のグレーゾーンが存在する中でケースごとに判断していく必要があるのは間違いありません。記事の原文には考慮を要するポイントがさらに詳しく書かれていますので、そちらを併せてご参照下さい。