オープンアクセス(OA)ジャーナルは、日本の研究者の間にもすっかり定着しました。OAジャーナルは購読の必要がなく、すべての掲載論文を誰でも無料でオンラインで読むことができます。多くのOAジャーナルでは、出版のための費用は論文著者が支払う論文出版料金(Article Processing Charge = APC)によって賄われます。
OA専門の新興出版社に加えて、Wileyを含む既存の多くの出版社もOAジャーナルを出版し、また従来の年間購読方式のジャーナルでも著者がオープンアクセスをオプションとして選べるようになっています。そうした中で近年深刻な問題になっているのが、APCによる収入を目当てに詐欺的な活動を行う悪徳OA出版社(predatory publisher = ハゲタカ出版社とも呼ばれる)の増加です。(おすすめの参考記事: タダで読めるけど・・・-オープンジャーナルのあやしい世界)
看護学ジャーナルのエディターが構成する国際団体 INANE (International Academy of Nursing Editors) に属するワーキンググループ Predatory Publishing Practices Collaborative は2014年8月、エディター向けに “Predatory Publishing: What Editors Need to Know” (ハゲタカ出版社についてエディターが知っておくべきこと)と題したガイドラインをまとめました。それに続いて同ワーキンググループは、これを論文著者向けに再構成したガイドライン “Predatory Publishing: What Authors Need to Know” (ハゲタカ出版社について著者が知っておくべきこと)を看護学誌 Research in Nursing & Health に発表しました。論文著者が悪徳OA出版社を見抜くためのチェックポイントが簡潔にまとめられていて、分野に関わらず普遍的に通用する内容となっていますのでご紹介したいと思います。
- 記事を読む Kearney, M. H. and The INANE Predatory Publishing Practices Collaborative (2015), Predatory Publishing: What Authors Need to Know. Res. Nurs. Health, 38: 1–3. doi: 10.1002/nur.21640 (2015年12月末まで無料公開)
ハゲタカ出版社は、警戒心の甘い研究者から投稿を獲得するためにあらゆる手段を講じます。著名な出版社やジャーナルの名前・ロゴマークを真似することもあれば、高名な研究者の名前を無断借用して編集委員としてサイトに載せることもあります。それらの手口に引っかかった研究者が特集号の客員編集長といった仕事を引き受けてしまうと、不本意ながらもハゲタカ出版社の投稿論文獲得に加担することを余儀なくされます。
たとえハゲタカ出版社からであっても論文を出せればそれでよしというのは甘い考えかもしれません。昇進・採用を決める業績評価の際に、信用に値しないジャーナルからの出版実績があることはむしろマイナスに働く可能性があります。それだけでなく、悪徳出版社は論文掲載後にも何かと理由を付けて、追加料金を請求してくることがあります。さらに最悪の場合、ある日突然ジャーナルのサイトごと閉鎖されてしまい、折角の研究成果が無に帰することさえ起こりえます。
今回のガイドラインでは、次のようなチェックポイントが挙げられています。
1. ジャーナルのコンテンツに責任をもつエディターは誰か
専門分野内でどのような地位にあるのか、直接コンタクトするための情報が提供されているか。
2. コンテンツの質を保証するためのプロセスはどのようになっているか
査読プロセスが明示されているか、編集顧問・査読委員会などのメンバーの名前と役割が示されているか。
3. ジャーナルが健全に運営されているか
論文出版料金についての情報が明記されているか、インパクトファクターが確認できるかなど。
また、Red Flag(危険信号)として警戒を要するのは次のような事柄です。(抜粋)
- 査読から判定までの日数が1週間以下など短すぎる 同じ社内の人間など身内によって、形だけの査読しかしていない可能性が疑われます。出版社が査読の迅速さを自ら謳う場合もあれば、出版済みの論文の履歴から所要日数を確認できる場合もあります。
- 要注意出版社のブラックリストであるBeall’s Listに載っている
- 雑誌名やロゴマークが既存のジャーナルを模倣している
- ホームページやメールの返信に使われている英語が下手 など
さらに詳しくは、上のリンク先から原文をご覧下さい。