チューリッヒ工科大学 (ETH Zurich) の Martin Fussenegger教授らのグループは、遺伝学的手法を用いて陰茎に青色光を当てるだけで勃起するラットの作製に成功したことを、Angewandte Chemie International Editionで報告しました。この成果は発表直後から多くの科学ニュースサイトやブログ、Twitterなどで取り上げられるなど、ネット上で大きな反響を呼んでいます。
- 論文 ⇒ Kim, T., Folcher, M., Baba, M. D.-E. and Fussenegger, M. (2015), A Synthetic Erectile Optogenetic Stimulator Enabling Blue-Light-Inducible Penile Erection. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201412204 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
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Fussenegger教授らは、青色光に応答して勃起を起こす働きをもつ遺伝子構築物を4年間かけて開発し、EROS(erectile optogenetic stimulator = 光遺伝学的勃起刺激体)と名付けました。このEROSを陰茎の海綿体組織に導入して青色光を照射すると、細胞内のグアノシン三リン酸(GTP)から環状グアノシン一リン酸(cGMP)が合成されます。cGMPは筋肉の弛緩・血流の増大を引き起こすため勃起が起こるという仕組みです。増加したcGMPはその後酵素によって分解されるため、時間の経過とともに勃起は収まります。その効果を確かめるために行われた実験では、EROSを導入したラットに下から青色光を当てると短時間で勃起が起こり、中には射精に至ったラットもいました。
Fussenegger教授らは、今回の手法は原理的に人にも応用可能と考えていますが、臨床試験には多額の資金が必要となるため、資金提供元となる協力者を探しているそうです。現在ED治療に用いられるバイアグラなどの内服薬は、勃起自体を引き起こすものではなく、性的刺激による勃起を長時間維持する作用をもちます。一方今回報告された手法では、青色光照射がトリガーとなり、性的刺激なしで勃起を引き起こすことができます。内服薬との併用による効果増大や、心疾患などのためED治療薬を服用できない人への治療効果が期待されます。
今回の報告のように遺伝学的手法を利用して光照射によって細胞の働きを制御する技術は光遺伝学(Optgenetics)と呼ばれ、近年ホットな研究分野になっています。