化学でいえば期待した反応が起こらなかったといった「ネガティブな結果」も、科学の発展のためにはポジティブな結果に劣らず重要だとはよく言われます。しかし論文著者としては、査読者やエディターへの印象を良くするためにネガティブな結果を載せないで済ませたいと考えるのも無理からぬことです。Wiley-VCHの化学論文誌Asian Journal of Organic Chemistryでエディターを務めるRichard Threlfall氏は、そのような「ネガティブな結果」に対して査読者はどのような視点をもつべきかを論じるコラム記事を、研究者・図書館員・学会関係者を対象にするブログWiley Exchanges上に寄稿しました。
- 記事を読む Ask about what doesn’t work- a guide for peer reviewers (March 31, 2015, Wiley Exchanges blog)
論文の査読中に「著者はXやYは試したのか?」という疑問が浮かんだら、査読コメントで遠慮せずに聞くべきというのがThrelfall氏の考えです。著者は既にXやYを実際に試していて、失敗したから書かなかっただけかもしれません。査読コメントによってそのような「ネガティブな結果」が論文に追加されれば、別の研究者が知らずにXやYを試して同じ失敗を繰り返すのを避けることができます。一方、著者がXやYを試していないのなら、査読者のコメントは著者の今後の研究にとってヒントになるでしょう。
とは言っても、著者に対して過度に要求して、結果的に論文の本筋から外れてしまうのは良くありません。そうならないためには査読者の側にバランス感覚が必要で、特に重要と思われるポイントに絞って追求することが望まれます。その際、「自分がエディターの立場なら、著者がXやYを試していなければこの論文をリジェクトするか? その理由は?」と考えてみて、それを査読コメントに反映させるといいでしょう。もし論文の採否を左右するほどではないなら、XやYについては”nice to haves”(あればなお良い)としてコメントしておくと著者の参考になるはずです。
著者がXやYを試さなかったことは「研究の限界(limitations)」に関わる部分です。論文で報告された研究が「明らかにしたこと」と「明らかにしなかったこと」との境界が分かるような査読レポートは、エディターにとって最もありがたいとThrelfall氏は言います。その意味で同氏は、査読者が研究の限界について著者に質問し、必要ならデータを要求することを奨励しますが、同時に報告された成果とのバランスを考慮し、著者への要求が行き過ぎないよう自制を求めています。
一方、データと結論が合っていない、あるいは実験結果の間に矛盾があるといった「不一致(inconsistencies)」はそれと性質の異なる問題です。こちらについては、査読者は納得がいくまで追求して構いません。