近年、中国など新興国での論文生産の活発化に伴い、査読を要する論文の数が世界的に増え、研究やその他の仕事で多忙な研究者にとって査読の負担がますます重くなってきていると言われます。(参考記事: 論文査読制度はもはや限界か?) その影響は論文誌のエディターも感じており、査読依頼を断られたり、返事なしで放置されるケースが増えていることを憂慮しています。査読依頼が断られると、論文の出版に要する日数が延びるだけでなく、その論文の主題にあまり詳しくない査読者に依頼が回され、査読の質が落ちることも懸念されます。
そうした中で、カナダのブリティッシュコロンビア大学などの研究グループは、研究者が論文査読を引き受ける際に動機となっているのは何かを調べるため、情報工学の一分野であるヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の研究者300人余りを対象に調査を行い、その結果をアメリカ情報科学技術協会誌 Journal of the Association for Information Science and Technology で報告しました。著者らによると、HCIの研究は学際性が高いため、各論文に対して適切な査読者を見つけるのが特に難しいのが特徴だそうですが、調査結果のかなりの部分は他の研究領域にも通じるようです。
- 論文 ⇒ Nobarany, S., Booth, K. S. and Hsieh, G. (2015), What motivates people to review articles? The case of the human-computer interaction community. Journal of the Association for Information Science and Technology. doi: 10.1002/asi.23469 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
同グループは回答者に、一般的に査読を引き受けること自体についての動機と、個々の査読依頼を引き受けようと判断する際に働く動機に分けて質問し、例として挙げた項目に対して自分にとっての重要度を5段階評価してもらいました。
査読を引き受ける一般的な動機としては、「質の高い研究を促進したい」「自分の論文も査読してもらっているから研究者コミュニティにお返しをすべき」「自分の研究分野での新しい動きを知りたい」などが上位にランクされました。
一方、個々の査読依頼を引き受ける際の動機としては、「自分の専門と論文の内容の関連性が高い」「自分はその論文が扱う主題のエキスパートだ」などが最上位に挙げられました。逆に査読を引き受ける意欲を損なう要因としては、「論文が長い」のほか、自由記入で「英語が下手」「過去に査読したのと同じ論文がリバイズなしで再び回ってきた」などが挙がりました。
同グループでは、これらの結果の分析に基づき、査読制度や各論文誌の編集部に対していくつかの改善案を提言しています。例えば、「コミュニティに対するお返し」という意識を高めるには、論文誌の編集部が研究者に査読を依頼する際に、その研究者が過去数年間に何報の査読を行い、逆に自分の論文何報の査読を受けたか、またそれらの数値は他の査読者と比べてどうかといった情報を提供するのが有効としています。