<記事紹介> ニセモノの「インパクトファクター」にご注意 / 怪しい業者の手口と見分け方

caution-454360_640論文著者から徴収する論文出版料金(APC)を目当てに、まともな査読も行わずにオープンアクセス(OA)誌を発行する悪徳OA出版社(predatory publisher = ハゲタカ出版社とも呼ばれる)の問題は、当ブログの最近の記事をはじめ多くのところで取り上げられています。その後を追うように最近浮上してきたもう一つの問題が、インパクトファクターと似た名前のジャーナル評価指標をでっち上げ、そのニセの「インパクトファクター」を付与する代価を出版社から徴収しようとする怪しげなデータベース業者の登場です。

ハゲタカ出版社のブラックリスト “Beall’s List” の公開で知られる米国の図書館員 Jeffrey Beall氏らのグループは、先月この問題をBioEssays誌への寄稿で取り上げ、注目を集めました。

BioEssays

著者らによると、そういった怪しいデータベース業者が現れたのは、ハゲタカ出版社によるインチキOA誌の興隆が原因となっています。本物のインパクトファクターを提供するトムソン・ロイターのJournal Citation Reports (JCR)のような権威あるデータベースは、それぞれのジャーナルが査読プロセスなどの面で国際的な編集基準に適合しているかを厳格に審査したうえで、収録するかどうかを判断します。この審査を通ることのできないハゲタカ出版社は、自分たちのジャーナルを権威づけするために、別のデータベース業者にいくらかの料金を払ってニセの「インパクトファクター」を獲得するというわけです。

この記事は、信頼性が疑わしい「インパクトファクターもどき」を提供する21のデータベースを実名で公表しています。その中で最大規模のScientific Journal Impact Factor は、1誌あたり$50を出版社から徴収し、実に18,000誌以上を収録しているそうです。他のデータベースも、”Global Impact Factor” のように本物のインパクトファクターと似通った名前を使うものが目につきます。また、JCRやWeb of Scienceの発行元を旧称 ISI (Institute for Scientific Information) で呼ぶ人は現在も少なくありませんが、それと紛らわしい Institute for Science Information のような名前を使う業者もいます。著者らはこれら業者のサイトをチェックしましたが、彼らの「インパクトファクター」の計算方法は明確に示されていなかったとのことです。

WileyのアナリストJenny Neophytouも、研究者・図書館員・学会関係者を対象にするブログWiley Exchangesへの寄稿でこの問題を論じています。

著者によると、ジャーナルの編集委員を務める研究者には、「あなたのジャーナルを評価した結果、弊社の新しい索引データベース JournalMetricsRUs への収録が認められました。データベースへの収録と”JMRU Impacting Factoid”の獲得をご希望であれば、下記の住所に$300をお送り下さい」といった勧誘のレターがしばしば送られます。そのようなレターを受け取ったら、たとえうまい話に思えても、まずは出版社の編集事務局に相談するのが安全です。多くの出版社は、データベースへのデータ提供に十分な経験があり、どのような業者が要注意かも心得ています。

またこの記事では、そのような勧誘レターを受け取ったときのチェックポイントが5つ挙げられています。

  1. ネットでの評判や業者のサイトを確認する
  2. 料金の支払いを収録の条件とする業者はまず怪しい
  3. 彼ら独自の「インパクトファクター」の算出方法が明確に示され、意味のあるものとなっているか
  4. 信頼できる引用データベースに基づいているか
  5. 独自の引用データベースを使っているなら、それをどのように構築しているか

この問題は、ジャーナル編集に携わっていない方も頭の片隅に留めておくことをお勧めします。怪しげな「インパクトファクター」を使っているジャーナル・出版社はそれ自体も怪しいと考えられるので、論文投稿先を決める際には回避するのが安全でしょう。

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