<記事紹介> 「インパクト」と「アテンション」の違い / 論文の新しい評価指標altmetricsの課題は?

Source: iunewind/iStockphoto

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論文のインパクト(影響度)を数量的に評価するための指標としては、論文の被引用回数をベースとしたものが主流になっていました。しかし近年になって、ソーシャルメディアをはじめとする広範なネット上での反響を測定するaltmetrics(オルトメトリクス)と呼ばれる指標が登場し、注目が高まっています。

altmetricsは、科学コミュニティの枠を超えた社会的反響を測定できる点や、被引用回数よりも短期間で結果が出ることが利点とされる一方で、論文のインパクトを測る指標としての妥当性を疑問視する声も上がっています。学術コミュニケーション・科学計量学を専門とする米インディアナ大学のCassidy Sugimoto准教授は、WileyのブログExchangesへの寄稿の中で、altmetricsがもつ課題を整理し、私たちが今後どのように扱っていくべきかを提言しています。

amscorealtmetricsは一般的に、論文がニュースサイトやブログ、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアで言及されたり、またMendeleyのような文献管理サービスで保存されたりといった、ネット上での広範な取り上げられ方をモニターし、数量的なスコアに換算しています。altmetricsを集計している企業・団体は複数あり、それぞれが独自の集計方法を採用しています。そのひとつAltmetric.comが提供するaltmetricスコアは、2014年からWileyの全ジャーナルで表示されるようになっています。(右図)

Sugimoto准教授によると、altmetricsは特に研究助成団体から注目され、研究成果が科学コミュニティの外まで及ぼす社会的な影響度を示す指標として支持される一方で、さまざまな批判も受けています。

Sugimoto准教授が挙げるaltmetricsの課題のひとつは、論文の「インパクト」の意味が従来と大きく異なる点です。論文についてツイートしたり、Mendeleyで保存したりするのは、論文で引用するのと比べてかなり軽い行為なので、「インパクト」として同列に扱っていいのか疑問をもたれても無理はありません。またaltmetricsがしばしば批判される点として、論文の著者が盛り込んだジョーク的な要素(例えばこの論文。Abstractに注目)などがネット上で話題になって何千回もツイートされ、極端に高いaltmetricスコアをもたらすことがあります。Sugimoto准教授は、そのような極端な例は別にしても、ニュースやソーシャルメディアで取り上げられる論文には、科学コミュニティ外の人々の関心を呼ぶ何かがあると言ってよく、それはインパクトというより「アテンション(注目度)」と呼んだ方がよさそうだと言います。

このアテンションが引き起こされるメカニズムは未解明な面が多く、今後の研究が求められます。例えば、Sugimoto准教授らによる最近の研究では、科学論文についてツイートしているユーザーの3分の1以上が博士号取得者で、平均的なTwitterユーザー層とは大きく異なることが分かりました。altmetricsの信頼性を評価するには、アテンションを生み出しているのはどういう人たちかといった知識が必要だとSugimoto准教授は考えます。

さらにSugimoto准教授は、「手段と目的のはき違い」こそがaltmetricsの大きな問題だと言います。altmetricsが論文評価、ひいては研究者評価のための指標として昇進・採用の決定に利用されるようになる兆しが見られますが、研究者がスコアを稼ぎたい一心で、ネットで話題になりやすいかどうかで研究テーマを選んだり、自分のネット上での評判を上げるための工作に時間を費やすようになってはまさに本末転倒です。Sugimoto准教授は、altmetricsは被引用回数など既存の指標にとって代わるようなものではなく、これまで測定できなかった科学の社会的な広がりを理解するためのツールとして思慮をもって利用すべきと訴えています。

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