論文の投稿や査読に関してジャーナルのエディターとやり取りをすることはあっても、エディターの仕事の全体像まではよく知らないという人が多いでしょう。そのような読者に向けて、British Journal of Educational Technology誌のエディターを22年間務めてきたNick Rushby氏が、WileyのブログExchangesへの寄稿で、エディターの仕事内容と役割を語っています。
- 記事を読む On being an editor (June 30, 2015, Wiley Exchanges)
Rushby氏によると、エディターには2種類いて、本業の教育や研究活動と並行してエディターの仕事を行う人と、エディターの仕事自体を本職としている人とに分けられます。Rushby氏は後者に属します。
学会誌の場合、会員の中から選ばれた研究者が、3~4年といった任期の持ち回りでエディターを引き受けることが多くあります。その場合、本業である教育・研究の妨げにならないよう、エディターの負担をなるべく軽くしようという配慮が働きやすくなります。大学も、かつては有力誌のエディターがいることを名誉として歓迎していましたが、最近は本業の邪魔になる余計な仕事ととらえがちだとRushby氏は言います。
エディターの仕事の中で大きな部分を占めるのは、第一にどの論文をアクセプトするか、あるいはリジェクトするかを決めることです。その際、一部のエディターは、投稿論文が査読に回すのに適切かどうか、ジャーナルの対象分野や長さの面でチェックを行う「門番」役に徹し、査読に回した後の採否の判断は査読者に任せています。それに対して、他のエディターはより手間をかけて、投稿論文をどのようにリバイズすればアクセプトできるようになるかを考え助言する「コーチ」の役割まで担っています。
同時に、査読者のスキルを高めることも重要な仕事です。多様な文化的背景をもつ査読者が論文を正しく評価し、建設的な査読レポートを書けるようになるにはトレーニングが必要で、エディターはその責任を担うというのがRushby氏の考えです。
エディターのもう一つの重要な役割は、ジャーナルをどのように発展させたいかというビジョンと戦略をもち実行することです。学会誌の場合は、発行元の学会がめざす目標(購読料収入の増加、質の改善、会員への出版機会の提供、学会の評判の向上など)に沿って成長戦略を立てることになります。Rushby氏は、エディターがそのような役割を担うには、5年以下の経験では不十分だと考えています。多くの学会のように3年ごとの任期でエディターを交代させていては、エディターは成長戦略を立案・実行できるほどの経験を積むことができず、そのような学会誌は現状維持しかできなくなってしまいます。(注: 学会誌でも、ドイツ化学会誌Angewandte Chemieのように、編集長Peter Gölitzが1982年から30年以上在任している例があります)
エディターの仕事にはかなりの負担が伴いますが、それに見合うだけの魅力もあるようです。エディターは、その分野の国際的な研究動向を把握できるだけでなく、学界において大きな影響力を持ちます。直接的には誰の論文を出版するかしないかの決定権を持つことになり、さらに有力誌の場合は、その編集ポリシーを通じて間接的に研究のトレンドにまで影響を与えることができます。このようにエディターの権限・影響力は大きいだけに、濫用されないよう倫理によって歯止めをかける必要があります。