学会などでの口頭発表は研究者にはおなじみですが、苦手意識をもっている人も少なくないでしょう。ましてや、限られた時間に次々と発表を聴く聴衆に自分の発表を強く印象付け、いつまでも忘れられないようにするのは相当にハードルが高い仕事に思えるのではないでしょうか。
Asian Journal of Organic Chemistryのエディターを務めるRichard Threlfall氏は、Wiley-VCHの化学誌の各エディターから「記憶に残る口頭発表」にするためのコツを聴取し、自分の経験とともに化学ニュースサイト Chemistry Views への寄稿記事で紹介しています。ジャーナルのエディターは、各地の学会に参加して口頭発表を聴く機会が人一倍多いため、有用なアドバイスが期待できそうです。
- 記事を読む Presentation Tips: Making it Memorable (6) (July 09, 2015, Chemistry Views)
Threlfall氏自身の記憶に最も強く残っているのは、発表者が聴衆のひとりを壇上に呼んでトランプ手品を披露したものだそうですが、これは誰にでもまねのできるものではありません。もっと手軽な方法として複数のエディターが挙げるのは、聴衆との気持ちのつながり(connection)を作ることです。
そのための方法はいろいろありますが、自己紹介の後にちょっとしたジョークをはさむというのが好例です。ある発表者は、会場に来るのに交通ストのせいで苦労した話をもとにジョークを言ったそうで、それによって同じような経験をした聴衆の共感を呼ぶことができます。また別のエディターは、発表の途中に聴衆の何人かとアイコンタクトを取ることを挙げています。
発表内容そのものについては、「ストーリーを語る」ことが聴衆に印象付けるコツとして挙げられています。あるエディターは、優れた口頭発表では、あたかもミステリー小説のストーリーを追うように、次のスライドで発表がどのように展開するのかをわくわくしながら待つと言います。そのためには、詳細を語り過ぎないのもポイントで、例えば反応をどのように最適化したかをこと細かに説明する代わりに「反応の最適化を行った」の一言で済ませる方が効果的な場合があります。
聴衆に強い印象を与えるには、実際のモノや動画を見せるのも効果的です。自己推進型モーターについてのある発表者は、ナノマシンが画面上を行き来する動画を見せただけでなく、複数のナノマシンの動きをレースに見立てました。聴衆は自分が気に入ったナノマシンを応援し出すまでになったそうです。ただし動画の再生には技術的なトラブルが起こりがちなので、発表者は入念な事前準備をしておく必要があります。最後に、これは本題からは少し外れますが、「発表で他の研究者の成果に言及するときは、予めその人の顔を覚えておく」というのも実用的なアドバイスかもしれません。その研究者本人が名乗らないで質問してくることもありがちで、そのとき本人と分からないと気まずいことになるからです。