<記事紹介> 家具ショップIKEA・発明王エジソンと論文査読の共通点は?

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IKEA(イケア)といえば北欧スウェーデン発で世界中で人気の家具ショップ、一方エジソンはいうまでもなく電話・蓄音機・白熱電球などの発明で知られる米国の発明王です。それらと論文の査読(ピアレビュー)との間に共通点があるという三題噺のようなエッセイをWileyのブログExchangesに寄稿したのは、Asian Journal of Organic ChemistryのエディターRichard Threlfall氏です。

IKEAで買い物をした経験のある人はご存じの通り、IKEAの家具は値段が手ごろな代わりに、客が持ち帰って自力で組み立てることを前提にしています。慣れない客が組み立てにひと苦労することも珍しくありませんが、実はそれこそがIKEAの家具の魅力になっているという説があります。2011年にハーバード・ビジネススクールなどの経営学者のグループは、人は自分で労力をかけて作り上げたものに、他人の手による同じものよりも高い価値を与える心理的バイアスが存在するという趣旨の論文を発表し、“IKEA Effect” (イケア効果)と命名しました。確かに、IKEAの家具に限らず、人は自分が作ったものに愛着を持ち、客観的な価値よりも上に見ようとする傾向があることは何となく納得できます。

このイケア効果の裏返しに当たるのが、1982年の論文で発表されたNot Invented Here (NIH) syndromeと呼ばれる現象です。このNIHシンドロームは、自分ではなく他人が発明したもの (Not Invented Here) が優れているのを認めまいとするバイアスとして働きます。

数々の輝かしい発明ほどには知られていませんが、エジソンは米国で電力事業が始まった当初、直流と交流のどちらの送電方式を採用するかをめぐってライバルたちと「電流戦争」といわれる激しい争いを引き起こしました。エジソンは自分が推す直流電流の安全性を印象付けるため、交流電流に対するネガティブキャンペーンを打ち、野良犬や野良猫を交流電流で殺す様子を大々的に公開するに至りました。しかし最終的には、交流方式の優位性が認められて広く採用されるようになり、エジソンは電流戦争に敗北します。エジソンをそこまで追いやったのは、ライバルによる交流方式の正当な価値から目を背けようとするNIHシンドロームの働きかもしれません。

それと論文査読と何の関係があるのか、というのが本題ですが、Threlfall氏は、論文査読の際にも上の2つと同じようなバイアスが働いているのではないかと考えます。つまり、論文の著者は自分の研究成果である論文の価値を過大評価するのに対し、査読者は他人の研究の価値を否定しようという方向で、双方に無意識のバイアスが作用しているというわけです。読者の皆さんは、論文著者あるいは査読者として、そのような実感がありますか?

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