最近の研究では、排出されるCO2のうち約40%が大気中にとどまり、約30%が海洋に吸収されると推定されています。残りのCO2の一部は植物によって吸収されますが、吸収しきれないCO2が大量に残る計算になります。そのように吸収源を特定できないCO2はミッシングシンク (missing sink) と呼ばれ、その行き先はこれまで未解明のままとなっていました。中国科学院・新彊(しんきょう)生態・地理研究所のYan Li研究員らのグループは、この謎の解明につながりそうな有力な研究成果をAmerican Geophysical Union(AGU, アメリカ地球物理学連合)の公式誌 Geophysical Research Letters で報告しました。
- 論文 Li, Y., Y.-G. Wang, R. A. Houghton, and L.-S. Tang (2015), Hidden carbon sink beneath desert, Geophys. Res. Lett., 42, doi:10.1002/2015GL064222. (オープンアクセス)
- AGUによる発表資料 “Carbon sink” detected underneath world’s deserts (July 28, 2015)
Li研究員らのグループは、中国・新疆ウイグル自治区にあるタリム盆地の各地から水のサンプルを集め、そこに含まれるCO2の年代を分析することによって、CO2の流れを示すモデルを作りました。タリム盆地は面積が約56万km2にもなる巨大な盆地(日本の総面積は約38万km2)で、中央部には広大なタクラマカン砂漠が広がる一方、周辺部では周りの山から流れ込む川の水を使って農業が営まれています。
Li研究員らのモデルは、水に溶けたCO2が土壌を通じて地下深くに送られていること、さらにそのペースが約1千年前、この地域で農業が始まった時期を境に約12倍にも加速していることを示しました。同グループによると、植物の根や地中の微生物から土壌中に排出されたCO2は、乾いた砂漠なら大部分が大気中に放出されますが、この地域の農地では、農家が塩害対策として大量に使用する灌漑用水とともに地下深くに送り込まれます。同グループの推定では、タリム盆地の地下にアメリカの五大湖の水量の10倍もの地下水を蓄える帯水層が広がっていて、そこに約200億トンのCO2が蓄積されています。
また同グループは、世界各地の砂漠の下の帯水層に貯蔵されるCO2を約1兆トンと推定しました。そういった帯水層は地下深くにあるため、貯蔵されたCO2は地表に戻ることがありません。これだけで消えたCO2のすべてを説明できるわけではありませんが、Li研究員らは少なくともその重要な一端が解明されたと考えています。CO2排出と大気中のCO2濃度上昇との関係をより正確に理解し、気候変動への影響を予測する上で価値の高い成果として、今後の研究の発展が期待されます。