同グループは、南米産の低木 Berberis ilicifolia から1996年に初めて単離されたアルカロイドであるイリシホリンB (ilicifoline B) の初の全合成を、木材から得られたフェルラ酸、ベラトロールとメタノールを出発物質として達成しました。また同グループは、過去に報告済みのモルフィンアルカロイド類の不斉合成法に、今回開発した手法を応用しました。その結果、マツの樹皮などに含まれるメチルフェルラートなど、木材に由来する物質だけを用いたにもかかわらず、ジヒドロコデインを15工程・総収率11.2% (ee 95%) で合成することができました。これはTrostのコデイン合成や福山のモルヒネ合成などを上回る高い効率です。
木材由来の出発物質は、石油由来のそれよりも合成反応に適した構造を予め備えていて、複雑な変換反応を要せず利用できることがしばしばあります。今回の報告は、有機合成のビルディングブロックを木材に求めるアプローチの豊かな可能性を示すもので、今後の発展が期待されます。
- 論文 Stubba, D., Lahm, G., Geffe, M., Runyon, J. W., Arduengo, A. J. and Opatz, T. (2015), Xylochemistry—Making Natural Products Entirely from Wood. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201508500 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- マインツ大学の発表資料 Wood instead of petroleum: New approach to producing chemical substances solely from renewable resources (October 26, 2015)