<論文紹介> Liquid-likeな撥水・撥油性表面を簡単に実現するコーティング法 / 液体に漬けて乾かし、洗い流すだけ (ACIE VIP)

Credit - pauline Ilott/iStockphoto

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水や油を弾き返して汚れが付くのを防ぐ撥水・撥油性表面の実現は、長年にわたる技術上の課題になっています。フライパンなどの「テフロン加工」の名前でおなじみのフッ素化合物によるコーティングや、ケイ素樹脂(シリコーン)によるコーティングの技術開発は、1940年代まで遡ることができます。最近は、ハスの葉など自然界に存在する表面構造を模倣する研究が盛んに進められていて、バイオミメティクス(生物模倣技術)の代表例のひとつとされています。

ハスの葉のような表面の微細構造によって撥水・撥油性をもたせるアプローチは有力ではありますが、水に対しては高い効果を上げる一方、水よりも表面張力の低い有機系の液体に対する効果が劣るのが弱点です。また、傷や不純物による汚れに弱いことも難点とされています。それに代わる新しいアプローチとして、細孔をもつ表面に液体を含ませて、水膜が油を弾くようにターゲットの液体を寄せ付けないSLIPS (smooth, liquid-infused porous surface)が近年注目されていますが、長期間の使用でも性能を維持することが課題に残っています。

米マサチューセッツ大学のThomas J. McCarthy教授らは、シリコーンの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)による撥水・撥油コーティング法を開発しました。このコーティングによる表面はslippery omniphobic covalently attached liquid (SOCAL) surfaceと名付けられ、凹凸の限りなく少ない滑らかさを示すだけでなく、表面のPDMSが液体のような(liquid-like)流動性を備えます。そのため、水滴だけでなくトルエン・ヘキサンなどの有機溶媒のしずくが付いても、1°未満のわずかな傾きによって簡単に滑り落ちます。

同教授らのコーティング法の大きな利点は、ガラス板などの対象物をジメチルジメトキシシラン Me2Si(OMe)2 と硫酸の溶液に浸した後、室温で数分または加熱して数秒という短時間で乾燥させ、水・トルエンなどで洗い流すだけという簡単さにあります。コーティングは、硫酸によって加水分解されたジメチルジメトキシシランのグラフト重合によって形成されます。この成果を報告する論文はAngewandte Chemie International Editionに掲載され、同誌の注目論文VIPに選ばれるとともに、化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されました。

Angewandte Chemie International Edition

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