そういったサプリに含まれるクロムは、無毒な3価クロム(Cr(III))で、かつて日本でも土壌・地下水汚染問題を引き起こした6価クロム(Cr(VI) )とは異なります。6価クロムは強い毒性・発がん性を持ち、取り扱いに厳重な注意を要する物質です。
3価クロムの作用については、クロモデュリンと呼ばれる体内のオリゴペプチドと結合することによってインスリンの作用を増強し、血糖値を下げるというメカニズムがこれまでの研究で明らかにされました。豪シドニー大学のPeter A. Lay教授らのグループはこのほど、3価クロムと結合したクロモデュリンのモデル化合物をマウスの脂肪細胞に投与した後、蛍光X線分析法(XRF) とX線吸収端近傍構造(XANES)測定と呼ばれる手法で分析を行いました。その結果、3価クロムとともに5価および6価クロムが検出され、3価クロムの一部が細胞内酸化反応によって5価・6価クロムに変化したことが分かりました。
Lay教授らは、人がクロムサプリを摂取した場合も細胞内で同様の反応が起こる可能性があり、長期的には6価クロムによる発がんリスクが懸念されると考え、動物実験や疫学的研究による確認を急ぐよう主張しています。今回の実験結果を報告する論文はAngewandte Chemie International Editionに掲載され、同誌の注目論文VIPに選ばれました。
- 論文 Wu, L. E., Levina, A., Harris, H. H., Cai, Z., Lai, B., Vogt, S., James, D. E. and Lay, P. A. (2015), Carcinogenic Chromium(VI) Compounds Formed by Intracellular Oxidation of Chromium(III) Dietary Supplements by Adipocytes. Angew. Chem. Int. Ed.. doi:10.1002/anie.201509065 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
■ ACIEでは、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
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