春の学会シーズンを前に、発表の準備に追われている読者の方も多いでしょう。多くの人にとって発表の場となるポスターセッションでは、何百という数のポスターが並ぶ中で、自分たちの発表に注目してもらうのは簡単ではありません。デザインにも工夫して、通りがかった人が思わず足を止めるようなインパクトのあるポスターを作りたいものです。そのように考える人の参考になるようなポスターの成功例を、化学ニュースサイト Chemistry Views が紹介しています。
- 記事を読む An Intriguing Poster – Some Assembly Required (January 5, 2016, Chemistry Views)
右上の画像は、昨年11月30日~12月2日にオランダで開催された化学系の学会 CHAINS 2015 で評判になった発表ポスターです。(拡大画像は上の記事でご覧下さい) このポスターは、オランダ・ユトレヒト大学の院生Carlo van Overbeek氏らのグループが、半導体ナノ結晶の2次元自己組織化に関する研究を発表するために制作したものですが、確かにユニークで思わず見入ってしまいますね。同氏をインタビューした上の記事によると、ポスターの写真がTwitterに投稿されて何十回もリツイートされたり、ポスターを見た人が同僚を連れてもう一度見に来たりといったように、異例の反響があったそうです。
ところで、このポスターのデザインに、何となく見覚えがある人も少なくないのではないでしょうか。実は、世界最大の家具ショップ IKEA (イケア) の商品に付いてくる、組み立て説明書のパロディになっているのです。van Overbeek氏によると、CollegeHumor.comというサイトで目にした、IKEAの組み立て説明書をネタにしたジョーク記事からアイディアを得たそうです。家具の組み立ては英語で”assembly”といい、研究テーマである「自己組織化 (self-assembly)」に通じることから、これは使えると考えたのでしょう。
皆さんも体験する通り、学会では情報がぎっしり詰まった発表を次々と耳にすることになり、得られた情報を消化するのに苦労しがちです。van Overbeek氏は、そのような学会で、細かい文字で文章を長々と書きこんだポスターを見せても、近寄りがたい印象を与えてしまうだけだと考え、目にした人が発表内容に自然に入り込めるよう、シンプルであると同時に楽しいポスターを作ることを心がけたそうです。
世界的な販売網をもつIKEAの組み立て説明書は、どの国の顧客でも理解できるよう、文字を極力使わず絵で説明しています。発表ポスターで研究内容を視覚的に伝えることをめざすなら、見習うところが多いかもしれません。