<論文紹介> 3Dプリントで作った精巧な造花で、ランの花が虫を引き寄せる仕組みを解明 / 色や模様などの自在な操作が可能に

Credit - Sergey Lavrentev/Shutterstock

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米オレゴン大学のTobias Policha非常勤講師らのグループは、ドラキュラ・ラフレウリィと呼ばれるランの一種が受粉のために虫をおびき寄せる仕組みを解明するために、3Dプリントで作った精巧な造花を活用した実験を行い、その成果をNew Phytologist誌で報告しました。3Dプリント技術を生物学研究に活用する新しい試みとして注目されます。

自然界には、生物が別の生物や無生物に姿を似せて、敵からの攻撃を避けたり逆に獲物をおびき寄せたりする「擬態」という現象が見られます。この擬態は一部の植物にも見られ、昆虫を花に引き寄せて受粉を促すといった働きを示します。

南米アンデス山中に生育するランの一種ドラキュラ・ラフレウリィは、日陰の湿った場所で育ちますが、その花は周囲に生えているキノコと形や色だけでなく匂いまで似ていることが知られています。キノコを餌とするハエ類をだまして花に呼び込み、受粉を促していると考えられますが、形・色・匂いといった花の特徴のうち、どの要素がハエを引きつけているのかは、実験が困難なため明らかになっていませんでした。

Policha氏らは、無臭のシリコーン樹脂を素材として、3Dプリンタで本物そっくりのドラキュラ・ラフレウリィの造花を作りました。この方法は、花の色や模様を変えたり、匂いをつけたり、また本物の花の部位と人工の部位とを組み合わせた「キメラ」を作ることによって、自然環境の中で実験条件を細かく操作することを可能にします。例えば、花弁を白や赤の単色、また縞模様や斑点模様といったように変化させて、ハエの集まり方を比較することができるようになりました。さまざまに条件を変えて実験を行った結果、花の中央にあってキノコのような匂いを放つ唇弁と呼ばれる部位と、その周りにある派手で目を引く卾(がく)とが相まってハエを引きつけていることが確認されました。

今回の実験は、遺伝子操作や交配のような手間暇のかかる方法を用いることなく花の特徴を操作する手法として、3Dプリントが有効であることを示しました。今後、同じ手法が他の生物学実験にも活用されることが期待されます。

New Phytologist

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