α-アリールケトン誘導体は、医薬品・機能性材料などの有機合成の骨格として有用性が高いため、その合成法は活発な研究の対象になっています。中でも遷移金属触媒を用いたα-アリール化反応は過去20年間に盛んに研究され、さまざまな新反応が開発されてきました。しかし、これまでに報告された反応の多くは、進行に高温を必要とするなどの難点がありました。
金触媒を利用した先駆的な研究で知られる独ハイデルベルク大学のA. Stephen K. Hashmi教授らのグループは、金触媒を用いて温和な条件下で可視光照射によって進行し、α-アリールケトンを中~高収率で生成するアルキンの二官能基化反応を開発しました。その大きな特徴は、Au(I)/Au(III)のレドックス(酸化還元)サイクルを用いる点にあります。同様のレドックスサイクルを用いた触媒反応は、過去にも少数ながら報告されていますが、Seletfluor試薬のような外部酸化剤もしくは光増感剤を必要としていました。今回のHashmi教授らの反応は、それらを用いることなく進行します。
Hashmi教授らは、今後この反応の応用によって、アルキンからα-アリールケトンとその誘導体を合成する有用なタンデム反応(カスケード反応)が開発されることを期待しています。今回の成果を報告した論文は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) に掲載され、同誌の注目論文VIPに選ばれました。
- 論文 Huang, L., Rudolph, M., Rominger, F. and Hashmi, A. S. K. (2016), Photosensitizer-Free Visible-Light-Mediated Gold-Catalyzed 1,2-Difunctionalization of Alkynes. Angew. Chem. Int. Ed.. doi:10.1002/anie.201511487 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
■ ACIEでは、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
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