5員環の炭化水素シクロペンタンを官能基化した化合物や、環の一部に炭素以外の原子を含むヘテロ環同族体は、生物活性天然物の重要な構成要素となっています。そういった化合物のうち、環の中に不斉ケイ素原子をもつシラシクロペンタン (silacyclopentane) は、自然界に存在しませんが、特異な生理活性を発揮することが期待されます。
キラルケイ素分子の不斉合成に取り組んできた九州大学先導物質化学研究所の友岡克彦教授、井川和宣助教らの研究グループは、キラリティーのないシラシクロペンタン酸化物から、新規に開発したキラルリチウムアミドを用いたβ脱離反応によって、多様なシラシクロペンタン類のキラル分子を世界で初めて合成することに成功しました。さらに、今回得られたキラル分子のひとつがセロトニン受容タンパクに対して高い結合活性を示したのに対して、その分子の立体異性体や置換基の異なる分子は有意な活性を示さなかったことから、不斉ケイ素原子が分子の生理活性に大きな影響を与えていることを確認しました。
キラルケイ素分子を利用した医薬品の開発につながることが期待される今回の成果を報告した論文は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) に掲載され、同誌の注目論文VIPに選ばれました。
- 論文 Igawa, K., Yoshihiro, D., Abe, Y. and Tomooka, K. (2016), Enantioselective Synthesis of Silacyclopentanes. Angew. Chem. Int. Ed.. doi:10.1002/anie.201511728 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- 九州大学のプレスリリース キラルケイ素分子の効率的合成に成功~キラルケイ素医薬品の開発に期待~ (2016年4月4日)
■ ACIEでは、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
⇒ 最近VIPに選ばれた論文