オーストラリア・RMIT大学のVipul Bansal教授、Rajesh Ramanathan博士らのグループがAdvanced Materials Interfaces誌で1月に発表した論文が、『光に当てるだけで勝手にキレイになる布』などとして多くのネットニュースで取り上げられています。着終わった服やケチャップのしみが付いた服が、洗濯しなくても明るいところにぶら下げておくだけで汚れが落ちるようになれば願ってもない話ですが、一体どのような研究なのでしょうか?
- 論文 Anderson S. R., Mohammadtaheri M., Kumar D., O’Mullane A. P., Field M. R., Ramanathan R., Bansal V. (2016). Robust Nanostructured Silver and Copper Fabrics with Localized Surface Plasmon Resonance Property for Effective Visible Light Induced Reductive Catalysis. Adv. Mater. Interfaces, 3: . doi: 10.1002/admi.201500632 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- RMIT大学のプレスリリース No more washing: nano-enhanced textiles clean themselves with light (April 1, 2016)
この方法でコーティングした布地に可視光を照射したところ、「局在表面プラズモン共鳴 (LSPR)」と呼ばれる現象によって電子移動が起こり、触媒活性を高めることが確認されました。フェロシアニドからフェリシアニドへの還元反応速度を調べた実験では、銀・銅とも、ホイル状よりもコットン生地にコーティングした方が、また暗所よりも可視光を照射した方が反応が促進されることが分かりました。また、銅のほうが銀よりも高い触媒能を示しますが、酸化しやすい銅ナノ粒子は繰り返し使用することで性能の低下が起こり、安定性・再利用性においては銀の方がすぐれていることも明らかになりました。
上に引用したRMIT大学のプレスリリースは、この方法で加工された布地が「光を当てるだけで汚れを分解する」性質をもつことを前面に出していますが、その中で著者のRamanathan博士が語っているように、より実生活での汚れに近い有機化合物の分解能については今後の研究を待つ必要があります。洗濯不要の衣服の実現までには道のりが遠そうですが、今後の発展に夢が持てる研究であることは間違いありません。