Angewandte Chemie International Edition の2017年新年号に、同誌の編集長Peter Gölitz氏が巻頭言(Editorial)を寄稿、この記事が昨日オンラインで先行公開されました。その中で同氏は、研究者にのしかかる「高インパクトファクターのジャーナルで論文を出したい」というプレッシャーが、若手だけでなく既に名声を確立した研究者までも堕落に導いていると警告し、それに関するエピソードを紹介しています。
- 記事を読む Gölitz, P. (2016), 150 Years of the German Chemical Society (GDCh), New Board Members, and More. Angew. Chem. Int. Ed.. doi:10.1002/anie.201611708 (無料公開中)
最近Angewandte Chemie誌に、ある研究者からドラッグデリバリーの特定の側面に関する総説論文を執筆したいというオファーがありました。編集部では、その主題は人気があり引用されやすいが、同誌で扱うには特殊すぎると判断し、読者層がよりフィットする別の姉妹誌への投稿をすすめました。著者からの回答は、「自分たちは研究資金や奨学金を得るために高インパクトのジャーナルで出版しなくてはならないので、せっかくのご提案だがお断りする」というものでした。
もう一つの例は、ある化学者からの投稿論文を、主題が特殊すぎ、しかも長すぎるという理由からデスクリジェクト(査読に回さず、エディターの判断だけで行うリジェクト)にしたときのことです。その判断に対して、著者のグループから怒りの抗議メールが届きました。その中で著者らは、自分たちのh-index (被引用回数に基づく研究者の評価指標)がいかに高いか、またこれまでの200報以上の論文がどれだけ多くの被引用を獲得してきたかを訴えていました。それだけの実績を持つ自分たちの論文を査読にさえ回さないのはおかしいと言いたかったようですが、Gölitz氏は、自分たち編集部はすべての投稿論文を偏見なく評価しており、投稿された論文そのもの以外の要素を考慮する余地はないとしています。
この記事によると、Angewandte Chemie誌への投稿は毎年増加の一途をたどり、2016年に投稿されたCommunication(短報)は12,000報に迫っています。(記事中のグラフ Figure 3 は、特にアジアからの投稿の急増を示しています。) そのうちアクセプトされて出版に至るのは約2,570報にすぎず、残りの約9,500報は何らかの形でリジェクトされています。その中でも、前述のデスクリジェクトの対象になったのが、およそ半数に相当する4,800報でした。そのような論文の多くは、研究としてはちゃんとしているが、同誌に載せるには主題が特殊すぎるというものですが、中には「いったい何を思ってこれを投稿してきたんだ?」と頭を抱えてしまうようなレベルの低い投稿もあるそうです。そのほかこの記事は、2017年9月11日にベルリンで開催されるAngewandte Symposiumの予定を伝えています。このシンポジウムは、2017年にドイツ化学会(GDCh)が創立150周年を迎えるのを記念して開催されるものです。講師には、Ben Feringa, Bob Grubbs, W. E. Moerner, Jack Szostakという4人のノーベル賞受賞者のほか、世界レベルの著名な化学者が招かれ、日本からは伊丹健一郎・名古屋大学教授が選ばれています。