論文投稿の経験がある読者の方は、投稿時に査読者の推薦が可能か、あるいはそれを推奨するジャーナルが少なくないことをご存知でしょう。編集部が適切な査読者を探す際の手がかりになるとして採用されているものですが、Journal of Neurochemistryは、このほどこの制度を廃止することを決めました。同誌のChief Editorを務めるJörg Schulz氏らが過去の査読結果を分析した結果、著者が推薦した査読者は著者に有利な判定を下す傾向にあることが明らかになったためです。
2013~2016年に同誌に投稿された論文を対象にしたこの分析結果によると、投稿論文の採択率は、著者が推薦した査読者(author-suggested reviewers, ASRs)が一人でも含まれる場合は52%で、著者の推薦ではなく編集部によって選ばれた査読者(non-author-suggested reviewers, non-ASRs)のみによる場合の32%よりも、顕著に高くなっていました。
もっとも、論文の採否は最終的にはエディターの判断を経て決まるため、ASRがnon-ASRよりも有利な判定を下したかどうかは、この数字からだけでは分かりません。そこで個々の査読者の最初の判定を見ると、リジェクトを選んだ割合はASRでは11.2%に留まったのに対してnon-ASRでは29.0%と、やはり著者の推薦を受けたASRの方が有利な判定を下す傾向にありました。
こうした結果からSchulz氏らは、著者によって推薦された査読者はリジェクト率を低くする方向にバイアスが働くという証拠を得たと判断し、査読者の推薦制度の廃止に踏み切りました。詳しい分析結果は、同誌で発表された論文で読むことができます。
- Hausmann, L., Schweitzer, B., Middleton, F. A. and Schulz, J. B. (), Reviewer selection biases editorial decisions on manuscripts. J. Neurochem.. Accepted Author Manuscript. (本文を読むにはアクセス権が必要です。2018年3月16日現在、Accepted Articleとして査読済みの著者原稿を公開)
Schulz氏は論文撤回の監視サイトRetraction Watchのインタビューにも答え、今回の決定に至った背景を説明しています。それによると、著者の推薦を受けた査読者が有利な判定を下す傾向はこれまでの研究からも知られていましたが、今回の分析が示したほど顕著な差があったことは想定外だったとのことです。また近年、出版不正のひとつとしてfake review(予め偽名で査読者として登録した自分自身を、論文の投稿時に査読者として推薦し、別人のふりをして自分の論文に有利な判定を下す行為)の増加が深刻化していることを理由に、査読者の推薦制度を廃止するジャーナルが増えていますが、Schulz氏はJournal of Neurochemistryではfake reviewの懸念は低いと判断したことから、推薦制度を廃止する理由には挙げなかったとしています。
- Why one journal will no longer accept author-suggested reviewers (March 15, 2018, Retraction Watch)