著者が語るWiley新刊 – 第7回 幕内 恵三先生 “Radiation Processing of Polymer Materials and its Industrial Application”

「著者が語るWiley新刊」第7回では、1月下旬に刊行される Radiation Processing of Polymer Materials and Its Industrial Applications の共著者のお一人である 幕内恵三先生(元日本原子力研究所 高崎研究所 研究主幹、特別研究員)に、同書をご紹介いただきます。

Radiation Processing of Polymer Materials and Its Industrial Applications
Keizo Makuuchi, Song Cheng
ISBN: 978-0-470-58769-0
Hardcover / 444 pages / January 2012
価格 US$149.95
(タイトルまたは表紙画像をクリックすると、リンク先でご試読用の章、索引および目次をご覧いただけます)

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右が幕内先生、左は共著者のCheng Song氏

 1980年から途上国協力でアジアやアフリカ、南米の各国で放射線加工、特に天然ゴムラテックスの放射線加硫の技術指導にたずさわってきました。延べ滞在日数は2年程度、訪問国は十数カ国になります(2000年外務大臣表彰)。講義資料を基に「ポリマーの放射線加工」を2000 年にラバーダイジェスト社から出版しました。この本は、中国の長春応用化学研究所の孫家珍先生のご尽力により中国語に訳され、「聚合物輻射加工」として刊行されました(科学出版社、北京、2003 年)。翻訳の過程や読者から指摘されていた多くの誤記を訂正して、「ポリマーの放射線加工」を2003 年末に再版しましたが、再版の性格上大幅な加筆訂正は行いませんでした。インドネシアやマレーシアの友人からは、英語版が欲しいといわれており、いずれは英語で改訂版を書こうと考えておりました。2008年のブラジルでの国際会議 (IRaP2008) で、米国在住中国人の程松 (Cheng Song) さんとの雑談の折、この話をしたところ、John Wileyからの出版を仲介してくれました。程松さんとは1980年代からの付き合いです。当時の彼は、中国軽工業局珪素研究所(四川省成都)の新人で、私の講演に鋭く執拗に質問を繰り返す若い研究者として強く印象に残っていました。その後、程松さんは米国に渡り、大学院を出た後、IBA、Sterigenics 等で放射線加工の研究開発に従事しました。程松さんが共著者になってくれたことにより、長鎖分岐の導入による樹脂の改質や高エネルギー加速器による複合材の製造の章を本書に加えることが出来ました。その他の章も共同執筆です。

 本書は、「ポリマーの放射線加工」を訂正加筆したものです。新たに架橋ポリエチレン管、PTC、人工関節、ラジアルタイヤ、長鎖分岐、高エネルギー加速器による硬化-複合材、細胞培養器への応用を追加しました。いずれもこれまで紹介されることが少なかった放射線加工であります。また、化学構造やモルホロジーの放射線架橋への影響や放射線架橋の促進法についても大幅に加筆しました。一方、水溶性ポリマーの放射線架橋によるハイドロゲルの合成、多糖類の放射線分解、放射線加硫の項は、9章 ”Radiation Processing of Aqueous Polymer System”にまとめました。ハイドロゲル及び多糖類については、非放射線プロセスの研究開発が進展している状況を追加しました。放射線加硫については、“An Introduction to Radiation Vulcanization of Natural Rubber Latex”(T.R.I., Bangkok, 2003) を出版しましたので縮小しました。低エネルギー加速器によるキュアリングは、すぐれた技術解説書が普及したことから割愛しました。放射線重合については、実用化の可能性は低いと判断し、最終章で中国の放射線乳化重合に触れるに止めました。

 本書の特色は、工業利用を主眼としており、非放射線法との技術及び経済性を比較しているところにあります。放射線プロセスが工業的に採用される条件は、他の非放射線プロセスよりも低コストで、性能にすぐれていることが力説されています。本書のもう一つの特徴は、中国や韓国、インド、ブラジル等放射線加工新興国からの文献を多数引用したところにあります。これらの国々の研究者たちが放射線加工の新たな領域を切り拓いてくれることを信じているためであります。

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