昨年の大晦日に90歳の誕生日を迎えた米国の有機化学者ギルバート・ストーク (Gilbert Stork) コロンビア大学名誉教授の人となりを、自身と友人の言葉で伝えるエピソード集が、Angewandte Chemie International Editionに掲載されました。
⇒ Seeman, J. I. (2012), Gilbert Stork: In His Own Words and in the Musings of His Friends. Angew. Chem. Int. Ed., 51: 3012–3023. doi: 10.1002/anie.201200033 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
ストーク教授の奔放でユーモアに満ちた人柄を示す逸話を一部ご紹介します。さらに豊富なエピソードを収めた原文もぜひお読み下さい。
- 院生時代に、論文投稿の流儀を知らなかったため、指導教授の名前を共著者に入れず無断でJACSに載せてしまったが、特に怒られずにすんだ。(Giving Authorship to One’s Professor)
- 自分の論文に数字の誤植が見つかったので、抄録が載る前にChemical Abstractsの編集部に手紙を書いて、「著者からの私信によると正しくは…」と訂正してもらった。(“Private Communication to Chemical Abstracts”)
- 研究室でステーキを焼こうとしたところ肉が腐りかけていたので、ガラス器具洗浄用の強酸槽に放り込んだところ、ガスが激しく発生。肉の脂肪と強酸からニトログリセリンが合成されて爆発するのではと恐怖に陥ったが、幸い何事も起こらなかった。(Blowing Up the Chemistry Department at Madison with my Steak)
- ポスドクだったポール・ウェンダー (Paul A. Wender)は、ハーバードなどいくつかの大学からオファーを受けて迷っていたが、相談を受けたストークは「君がテニュアを取れて当然の大学に行くのと、テニュアを取れることがまずあり得ないハーバードに行くのとどっちがいい? でも実験してみる価値はあるんじゃないか」と答え、ウェンダーはハーバードを選んだ。(Giving Career Advice to Paul Wender)
- カナダでの講演後の質疑で、聴衆から「カナダの失業問題は今後どうなると思いますか?」と、化学とは無関係の質問を受ける。予期しない質問に戸惑ったストークは、その場の思いつきで「化学のPh.D.を取った後、バスの運転士になるのも悪くないんじゃないですか? 渋滞中に別の面白いことを考えていられるし」と答えた。(On the Consequences of Flippant Answers)